サライ最新号
2025年
3月号

サライ最新号

文/鈴木拓也

「おむすび」という言葉を聞くと、かすかに懐かしい気持ちにとらわれる。

それはきっと、母におむすびを作ってもらった幼い頃の記憶が、呼び覚まされるからだろう。生まれ育った漁業のまちにふさわしく、具材は鮭、筋子、イクラ、昆布など。海産物だけを使うものだと長らく思い込んでいたが、実はそうではない。地域によって素材はまちまち、かつバラエティに富んでいる。

そんな、地域性あふれるおむすびの世界にいざなってくれる今日の1冊は、『日本のおむすび 47都道府県を旅して見つけた毎日楽しめるレシピ94』(ダイヤモンド社 https://www.diamond.co.jp/book/9784478120200.html)。著者は、「旅するおむすび屋」代表の菅本香菜(かな)さんだ。

北海道の農園を訪れたときの菅本さん(右側)(本書13pより) 

2017年に独立した菅本さんは、おむすびを通じた食育ワークショップやイベントを各地で主催。それが、コロナ禍の緊急事態宣言によって、なかば休業を余儀なくされた。しかしそのことが、「47都道府県のおむすびを学ぶ旅」を始めるきっかけとなる。

この旅は、文字どおり全都道府県を巡って、当地のおむすびと出合う旅。菅本さんは、生産者や料理人との交流を通じ、素朴な食文化の理解を深めた。本書はその集大成であり、登場するおむすびは94種類。菅本さんの探訪記とともに、それらのレシピも記されている。

今回は、そのうち3種類のレシピを紹介しよう。

「しょっつるのおむすび」

秋田名物の1つが、しょっつる。塩漬けしたハタハタを、長期間かけて発酵させてできる調味料だ。菅本さんは、漁業協同組合女性部の有志が結成した「ひより会」を訪れ、しょっつるの焼きおにぎりを教わる。しょっつるで味を付け、海苔を巻いただけのシンプルなおむすびだが、「意外なマリアージュ」を堪能できるそうだ。

でき上がった「しょっつるのおむすび」(本書23pより)

【材料(1個分)】
・温かいごはん……茶碗1杯弱
・鍋通亭しょっつる……小さじ1程度(秋田県内の道の駅や秋田食材を扱う通販サイトで買える)
・海苔(あれば岩海苔)……適量

【作り方】
1. 温かいごはんでおむすびを結び、魚焼きコンロもしくはフライパンで焼く。
2. 焼き目がついたおむすびにしょっつるを塗り、香ばしさが出るまで焼く。
3. 海苔を巻く。

「アサリの洋風佃煮むすび」

京都府宮津市は、日本三景の1つである天橋立で有名だが、そばの阿蘇海は、漁業の盛んな地域でもある。そこでは、浮かべたイカダからかごを下げてアサリを育成している。漁師が手塩にかけて育てたアサリは、「身が大きくうま味の濃い」ものだという。さらに同市は、オリーブの栽培も盛ん。アサリとオリーブオイルの合わせ技に、隠し味として味噌を加えたのが、このおむすびだ。

でき上がった「アサリの洋風佃煮むすび」(本書116pより)

【材料(6~8個分)】
・米……2合
・アサリ(殻付き)……500g(※むき身で約80g)
・オリーブの実……40g
・A――オリーブオイル……大さじ1、酒……大さじ2
・B――味噌……小さじ2、オリーブオイル……大さじ2、酒……大さじ1

【作り方】
1. アサリは塩水(塩分量外)に浸けてアルミホイルなどをかぶせ、暗所で30分ほど砂抜きしておく。
2. オリーブの実をみじん切りにする。
3. 1のアサリをこすりながら、よく洗う。
4. フライパンに3のアサリを並べ、Aを加えたら、蓋をして3分ほど酒蒸しにする。
5. アサリの貝が開いたら、身を取り出す。
6. 小鍋にアサリの身とオリーブの実、Bの調味料を加え、汁気がなくなるまで煮詰める。
7. 炊いたご飯に6を混ぜて、おむすびを結ぶ。

「手作り明太子のおむすび」

菅本さんの出身地は福岡県。中学時代、母親が作ってくれた明太マヨおむすびが思い出に残っているという。その思い出をよすがに、同県小郡市を訪れる。出迎えたのは、明太子作りを生業とする稲益智佳子さん。4日かけて作る明太子を具材にしたおむすびは、「えぐみや臭みがなくサッパリしたうま味でとても食べやすい」。それをレシピに再現した。

でき上がった「手作り明太子のおむすび」(本書178pより)

【材料(1個分)】
・温かいごはん……茶碗1杯弱
・生タラコ……2腹
・日本酒……適量
・塩……日本酒の10%程度
【漬け汁】
・日本酒……1カップ
・みりん……大さじ2
・昆布……5cm角1枚
・鰹節……5g
・A――醤油……小さじ1、砂糖……小さじ1、韓国産赤唐辛子(粉)……15g
※お好みで海苔を巻いてもいい。

【作り方】
1. 生タラコを洗って血管などを取り除き、水気を拭く。バット(もしくはタッパー)に並べて軽く塩(分量外)を振ってラップをかけて1~2晩冷凍し、冷蔵庫で解凍する。
2. 日本酒に塩(日本酒対して10%程度)を入れて混ぜ、1のバットにタラコが浸る程度の量を注ぐ。冷蔵庫で一晩漬けておく。
3. タラコを取り出して軽く洗い、水気を拭く。タラコをバットに並べ、ラップをせずに1~2時間冷蔵庫に入れて乾燥させる。
4. 鍋に酒とみりん、昆布を入れて中火にかける。ふつふつと煮出す直前に昆布を取り出し、中弱火で5分ほど煮詰める。
5. 鰹節を加えて1分ほど煮出して火を止め、鰹節をキッチンペーパーなどでこす。出汁が温かいうちにAを加えて混ぜて冷ます。
6. 消毒した器に乾燥させたタラコを並べ、5の漬け汁に漬けて冷蔵庫に入れる。
7. 3日後から食べられる。冷蔵庫で4~5日保存可能。
8. 手作り明太子を具材におむすびを結ぶ。

※手作り明太子は適量を具材に使うだけ。余った分は常備菜として活用できる。

(本記事に掲載した本書内の写真撮影:澤田直大、中山雄太)

【今日のおいしい1冊】
『日本のおむすび 47都道府県を旅して見つけた毎日楽しめるレシピ94』

菅本香菜著
定価1760円
ダイヤモンド社

文/鈴木拓也
老舗翻訳会社役員を退任後、フリーライターとなる。趣味は神社仏閣・秘境めぐりで、撮った写真をInstagram(https://www.instagram.com/happysuzuki/)に掲載している。

 

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