江戸前だけが蕎麦にあらず 当世郷土蕎麦案内

江戸時代中期以降、関東で醤油づくりが盛んになると、蕎麦のつけ汁が登場し、蕎麦の人気が高まった。江戸後期の風俗史『守貞謾稿』に《江戸の蕎麦屋は一、二町毎に一戸あり》と記されたほど、数多くの蕎麦屋があったという。往時から「もり」や「かけ」は蕎麦の定番で、この江戸前の蕎麦は参勤交代などで地方にも広まった。

とはいえ地方では、地域の特性を活かした郷土蕎麦が発展した。たとえば、新潟のへぎそばのように、つなぎに布海苔を用いるものもあれば、長野のすんきそばのように、当地にしかない漬物を入れるなど、さまざまな特産物と組み合わさった蕎麦も多い。はたまた、青森の津軽そばのように、製粉してから食べるまでに数日を要する蕎麦もある。「煮置き」と呼ばれる製法で“茹でて冷やして寝かせる”を繰り返すことで、柔らかく、保存性の高い蕎麦になるそうだ。

蕎麦はほかの麵よりも細長く切れやすいため、“厄災や苦労を断ち切る”や“延命長寿を願う”など縁起物としても重宝された。なにより日本は各地においしい水がある。ゆえにうまい蕎麦が育まれ、今も受け継がれている。旅の目当てにもなる郷土蕎麦を味わいたい。

北海道 にしんそば

甘露煮にした身欠きニシンをのせたもの。濃口の味付けで汁はほのかに甘い。江差町でニシ
ン漁が栄えたころに発祥した。

青森 津軽そば

保存性を高めるために「煮置き」を施す。箸で持ち上げると切れるほど柔らかく、つなぎに呉(すりつぶした大豆)を使う。

岩手 わんこそば

ひと口分の蕎麦を盛った椀で供される。次々におかわりが投げ入れられ、食べた椀の数を競う。麵は長く、のど越しがよい。

山形 板そば

長い板の上に数人前を盛り付ける、村山地方の農作業後の振る舞い蕎麦に由来。“板につくように”という願いも込められる。

福島 ねぎそば

会津は大内宿の名物。1本の長ねぎを箸代わりにする。ねぎを齧れば薬味になり、つゆではなく辛味大根の搾り汁を使う。

新潟 へぎそば

布海苔(織物に張りを持たせる役割)をつなぎにした、新潟の織物文化と蕎麦文化が融合。“へぎ”という器に盛り付ける。

長野 すんきそば

木曽カブと呼ばれる赤カブの菜を、塩を使わず乳酸菌で発酵させた木曽地方の漬物「すんき」を、かけ蕎麦にのせたもの。

福井 おろしそば

たっぷりの大根おろしと削り節、刻みねぎをのせる。嶺北地方を中心に食されている。報恩講の夜食として発展した。

京都 茶そば

お茶どころ宇治ならではのもので、蕎麦に小麦粉、宇治抹茶、食塩を加えて打つ。江戸中期に誕生したといわれる。

島根 出雲そば

蕎麦を殻ごと挽く、挽きぐるみを使ったもの。三段の丸いお重に盛り込み、この重を割子と呼ぶことから割子蕎麦ともいう。

山口 瓦そば

明治10年の「西南の役」で兵が瓦で野菜を焼いて食べたことに由来。茶そばに錦糸卵や甘辛く煮た牛肉などをのせる。

徳島 祖谷そば

蕎麦の名産地、三好市の祖谷地域の蕎麦粉を用いた十割蕎麦。太く短く、香りが強い。具はかまぼこ、油揚げ、青ねぎなど。

協力/農林水産省 うちの郷土料理、まるごと青森、おいしい山形、福井県観光連盟、岩手県観光連盟、京都 宇治 伊藤久右衛門

※この記事は『サライ』本誌2024年12月号より転載しました。

『サライ』12月号大特集は『「麵」の大国ニッポン』

取材・文/鹿熊 勤 撮影/寺澤太郎

 

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