咲き誇る花と緑の織りなす美しさを、うるわしと讃えられた大和の国。悠久の古を歩きながら、この地で産する食材をふんだんに用いた料理をじっくり味わいたい

萬御菓子誂處 樫舎(よろずおんかしあつらえどころ かしや)|最良の素材を生かす 産地が育む和菓子

干菓子「あずま菊」432円(5個入り)。奈良らしく五行の色合いを表現。右から木の緑、火の赤、土の黄、金の白、水の紫と美しい。

「和菓子は素材が主役です。菓子職人の仕事は、上質な素材に吸水、加熱、加糖するだけ。余計なことはしないのが肝心です」と、『樫舎(かしや)』店主の喜多誠一郎さん(51歳)。だからこそ、一流の生産者が苦心して作った素材に真摯に向き合う必要があるという。徳島の老舗菓子店に生まれ、大和郡山の老舗で腕を磨き、2008年、ならまちに自店を開業する。

奈良県産の青大豆でつくる干菓子「鹿」は、青大豆の青みを残すため遠赤外線で炒る。甜菜糖・吉野本葛を合わせて木型に詰めすっと抜く。彫りを深くした木型には、蜜蝋を塗ってすべりをよくする。

「和菓子は確かに伝統の技や味の上に成り立ちますが、そのままでは時代に埋もれます。古典の和菓子を将来に繋ぐため、日々研鑽を忘れません」

秋以降に店頭に並ぶ「栗の葛焼き」は、栗餡に吉野本葛を合わせて蒸し上げ、さらに葛粉をまぶして厚板の上で四方をじっくり焼き上げる。「遠赤外線で焼くことで葛本来の風味を表す」のだという。

簡素だからこそ、原材料の保存や手際も大切。手をかけすぎずに素材を思う「穢さないという美学」が貫かれている。

9月~12月の間、店頭に並ぶ「栗の葛焼き」475円。通年つくられる丹波小豆の葛焼き「みよしの」410円と食べ比べたい。
開業以前より、社寺や茶席の菓子の注文を受けて誂えるほか、瀬戸内海の客船「ガンツウ」の和菓子監修を行う。

萬御菓子誂處 樫舎 

風情ある店舗。和菓子4種とお茶や珈琲を味わえる「和菓子のコース」(3300円、予約制)のほか喫茶も充実。

奈良市中院町22-3
電話:0742・22・8899
営業時間:9時~18時
定休日:無休
交通:近鉄奈良駅より徒歩約12分 

※この記事は『サライ』本誌2024年11月号より転載しました。

『サライ』2024年11月号は特別付録「『ザ・スコッチハウス』スケジュール手帳」付き。

 

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