咲き誇る花と緑の織りなす美しさを、うるわしと讃えられた大和の国。悠久の古を歩きながら、この地で産する食材をふんだんに用いた料理をじっくり味わいたい。
粟 ならまち店|復活した大和伝統野菜を味わう
奈良在来種の種を保存し、収穫した野菜など作物は自社の料理店で提供するなど、真摯に農業の未来と向き合ってきた人がいる。『粟(あわ)』の三浦雅之さん(54歳)、陽子さん夫妻だ。大和伝統野菜の種を探して復活させ、保存にも努めてきた。さらには、収穫した野菜を料理にして供することで、個性ある味わいや料理との相性を、伝え続けてきたのだ。
「私たちがこの地で農作を始めたのは28年ほど前でしょうか。当時栽培されていた大和野菜は、わずか9種でした。京野菜や加賀野菜は全国的に認知されているのに、大和野菜は地元の人もそれほど知らなかった。だから、私たちは古い農家さんを回って話を聞き、種を譲っていただいた。無農薬、有機肥料で作ってきたのです。現在では53種にもなりました」と雅之さんは語る。
ともに医療、福祉に携わっていた三浦さん夫妻は、新婚旅行で訪ねたアメリカで先住民に出会い、伝統の作物を受け継ぎ健康を保つ彼らの生活の中にこそ、予防医療や福祉を考えるヒントがあると感じたという。
「気候風土や季節にそって作る野菜や穀物を摂ることで体を保つ。現代人が忘れている当たり前のことに私たちも取り組もうと思ったのです」(雅之さん)
2001年に農家レストラン『清澄の里 粟』(奈良市高樋町)を開業。時季の野菜や伝統食材を盛り込んだ料理の美味しさを広めている。
『清澄の里 粟』の姉妹店として2009年に開業したのが『粟 ならまち店』。
「市街地にも店を開き、国内外のみなさんに大和伝統野菜の本来の味わいを知ってほしかった」と話すのは、前出の三浦雅之さん。その日に収穫された野菜が届き、料理にできるのが一番の強みだろう。
ここで味わえるのは、三浦さんが手塩にかけて育てた大和伝統野菜のほか、露地ものの地野菜、鎌倉時代から継がれる大和牛、自然環境の中で育てられた田舎どりなどを使ったコース料理。なかでも籠盛の前菜は、奈良の多彩な食材を味わえると評判だ。たとえば、夜の「大和牛と野菜のディナーコース」には、つるむらさきの白和えや大和丸なすの田楽といった8種類ほどの野菜料理、大和牛のしぐれ煮やローストビーフも盛り込まれ、食べ応え充分。籠盛以外にも、葛餡仕立ての炊き合わせ、大和牛の陶板焼き、三輪素麺が付く。
「秋までは大和丸なすや栗南京(かぼちゃ)などが美味しいです。味だけでなく、食感や香りといった独特の風味を感じてください」と店長の新子大輔さん(48 歳)。
季節ごとに足を運んで、歴史ある奈良の食文化に親しみたい。
粟 ならまち店
奈良市勝南院町1
電話:0742・24・5699
営業時間:11時30分~14時、17時30分~20時30分(いずれも最終注文、要予約)
定休日:火曜
交通:近鉄奈良駅より徒歩約10分
※この記事は『サライ』本誌2024年11月号より転載しました。