取材・文/池田充枝
浮世絵の大部分を占めるのは、絵師が版下絵を描き、彫師、摺師の手を経て完成される版画の手法で作られた作品です。絵師が描いた版下絵は、彫師が版木を彫る際に一緒に削って失われるため、もともとの絵師の筆遣いを知ることはできません。
一方、絵師が注文を受け、紙や絹に描いて仕上げるのが肉筆画で、まさに一点ものです。肉筆画からは、繊細な描線やグラデーションなど、浮世絵師の本来の技量がうかがえるほか、使われた顔料の美しさなども楽しむことができます。
東京・原宿にある浮世絵専門の美術館、太田記念美術館では、初期浮世絵の菱川師宣からはじまり、鳥居清長や喜多川歌麿、葛飾北斎、歌川広重、といった有名絵師から明治時代に活躍した小林清親、月岡芳年まで、肉筆浮世絵の名品を多数所蔵しています。
この世に1枚しかない肉筆画の名画が勢ぞろいする展覧会が開かれています。(2月9日まで)
本展では、太田記念美術館の名品中の名品である葛飾北斎の「雨中の虎」、北斎の娘で近年注目されている絵師、葛飾応為の「吉原格子先之図」が揃って出品されます。
本展の見どころを、太田記念美術館の主幹学芸員、渡邉 晃さんにうかがいました。
「太田記念美術館は、かつて東邦生命相互保険会社の社長を務めた五代太田清藏(1893~1977)が、生涯に渡って蒐集した浮世絵を中心とする、約14000点のコレクションを所蔵しています。本展は、昭和55年(1980)1月以来、都内でも数少ない浮世絵専門美術館として活動を続けてきた当館の開館40周年を記念した展覧会。当館は肉筆浮世絵も多数所蔵していますが、今回はその中から名品を選りすぐって紹介いたします。
中でも注目は、タイトルにもなっている喜多川歌麿、葛飾北斎、葛飾応為の3人の作品。喜多川歌麿『美人読玉章』は、手紙を読み耽る高位の遊女を描いたもので、画面全体に格調高い雰囲気が溢れる優品。葛飾北斎『雨中の虎』は、北斎がその没年である数え年90歳で描いたもので、衰えを知らない北斎の力強い画力がうかがえます。葛飾北斎の娘である、葛飾応為の『吉原格子先之図』は、約2年ぶりの公開。世界で十数点しか作品の知られていない応為の貴重な一点であり、代表作でもあります。遊廓の光と闇を幻想的に描き出した傑作をお楽しみください」
なんといっても北斎親子の競演が見どころ!! ぜひ会場でご堪能下さい。
【開催要項】
開館40周年記念 太田記念美術館所蔵 肉筆浮世絵名品展 ―歌麿・北斎・応為
会期:2020年1月11日(土)~2月9日(日)
会場:太田記念美術館
住所:東京都渋谷区神宮前1-10-10
電話番号:03・5777・8600(ハローダイヤル)
http://www.ukiyoe-ota-muse.jp
開館時間:10時30分から17時30分まで(入館は17時まで)
休館日:月曜日(ただし1月13日は開館)、1月14日(火)
取材・文/池田充枝