取材・文/池田充枝
令和2年(2020)は、わが国最古の正史『日本書紀』が編纂された養老4年(720)から1300年という記念すべき年です。
その冒頭に記された国譲り神話によると、出雲大社に鎮座するオオクニヌシは「幽」、すなわち人間の能力を超えた世界、いわば神々や祭祀の世界を司るとされています。一方で、天皇は大和の地において「顕」、すなわち目に見える現実世界、政治の世界を司るとされています。つまり、古代において出雲と大和はそれぞれ「幽」と「顕」を象徴する場所として重要な役割を担っていたのです。
「幽」と「顕」を象徴する地、島根県と奈良県が東京国立博物館と共同で出雲と大和の名品を一堂に集めた展覧会が開かれています。(3月8日まで)
本展では、出雲大社に古くから伝わるご神宝をはじめ出雲大社の歴史を物語る作品、島根や奈良の遺跡から出土した青銅器や鏡、大和の地でひっそりと守り伝えられた石仏などが紹介されます。
本展の見どころを、主催の東京国立博物館、考古室長の品川欣也さんにうかがいました。
「『日本のはじまり、ここにあり』をうたい文句としている本展には日本の古代史を語る上で欠くことのできない島根県と奈良県の名品が勢ぞろいします。その中から両県の代表作品を一つずつ取り上げてご紹介しましょう。
島根県代表は荒神谷遺跡から出土した国宝の銅剣・銅鐸・銅矛です。出土した銅剣の数はそれまで国内で出土した銅剣の総数約300本を上回る358本です。また近畿と北部九州とに分布を違えることの多い銅鐸と銅矛が一緒にまとまって出土しました。多くの人びとを驚かせ、考古学者の弥生時代観をぐらつかせた発見は、教科書を書き換えるとまで評価されています。荒神谷遺跡出土した青銅器189点を東京で見ることができる約20年ぶりの機会です。ぜひお見逃しなく。
奈良県代表は石上神宮伝来の宝刀、国宝の七支刀です。刃が樹木の枝のように伸びる異形の姿が目を引きますが、考古学者や古代史研究者は表裏に金象嵌で刻まれた61文字に注目します。銘文の解釈には諸説ありますが『百済王が倭王に贈った』とする説が通説で、高句麗の圧迫を受けていた百済が倭とつながりを求め贈ったものと考えられています。
また本作を百済から献上されたと日本書紀に記載される『七枝刀(ななつさやのたち)』と考える意見も根強く日本史の一級史料とも呼べるものです。七支刀の唯一無二の造形とともに表裏に刻まれた銘文もあわせてご覧ください」
日本が国内外から注目される年の初めにふさわしい展覧会、ぜひ会場に足をお運びください。
【開催要項】
日本書紀成立1300年 特別展 出雲と大和
会期:2020年1月15日(水)~3月8日(日)
会場:東京国立博物館 平成館
住所:東京都台東区上野公園13-9
電話番号:03・5777・8600(ハローダイヤル)
展覧会公式サイト https://izumo-yamato2020.jp/
開館時間:9時30分から17時まで、金・土曜日は21時まで(入館は閉館30分前まで)
休館日:月曜日(ただし2月24日は開館)、2月25日(火)
取材・文/池田充枝