取材・文/池田充枝
かつてヤマト政権が都をおいた土地として伝承され「国中(くになか)」とも呼ばれた奈良県東北部に位置する岡寺、室生寺、長谷寺、安倍文殊院の四寺は、6世紀半ばに仏教が朝鮮半島から伝来して間もない飛鳥時代の7世紀、あるいは仏教を大いに受け入れた奈良時代の8世紀に建てられた古刹です。
室生寺は、室生川に面して立ち、上流の渓谷には龍神が棲むと信じられている多くの洞窟があることで知られます。本尊は国宝の十一面観音菩薩立像です。
岡寺は、古代政治の舞台であった飛鳥(明日香)を見下ろす丘の上に立ち、日本で最も大きな塑像の重文・如意輪観音菩薩坐像を本尊とします。
長谷寺は、初瀬山の斜面に寺域が広がり、四季折々の花々が参拝客の目を楽しませてくれます。本尊は10メートルを超す重文・十一面観音菩薩立像です。
安倍文珠院は、乙巳の変(大化の改新)があった645年に左大臣安倍倉梯麻呂が建てた寺で、現在の本尊は、仏師・快慶によってつくられた国宝・文殊五尊像です。
大和の古刹四寺から国宝・重文の仏像が一堂に会する展覧会が開かれています。(9月23日まで)
本展の見どころを東京国立博物館の平常展調整室長、皿井舞さんにうかがいました。
「この四寺には、魅力的な仏像が大切に守り伝えられています。
室生寺からは、国宝・十一面観音菩薩立像と重文・地蔵菩薩立像、重文・十二神将立像二躯(巳神・酉神)など5点が並びます。十一面観音の細線をいくえにも重ねた衣の襞はさざ波のように美しく、半眼の優しい眼差しが観音の慈悲を感じさせる名品です。また、同じ平安前期彫刻ながら、同寺、国宝・釈迦如来坐像は深く鋭い衣文に迫力がある逸品です。
岡寺からは創建当初の本尊と伝えられる重文・菩薩半跏像のほか、深く刻まれた皺に深い精神性を感じさせる名作、国宝・義淵僧正坐像など4点。
長谷寺からは今も篤い観音信仰の歴史を伝える重文・難陀龍王立像と重文・赤精童子立像をはじめとする諸像6点、安倍文珠院からは快慶作文殊菩薩像の胎内に秘められた、仏の魂ともいうべき経巻がお出ましになります。
本館の平常展にて、これだけのバラエティに富んだ名品をご覧いただく機会は早々にはございません。また、本展は総合文化展観覧料(620円)でご覧いただけるとてもお得な展覧会です。卓越した造形と篤い信仰を物語るみほとけをぜひご堪能ください。」
遥か昔の大和の地に花開いた仏教文化にふれるまたとない機会です。ぜひ会場に足をお運びください。
【開催要項】
特別企画 奈良大和四寺のみほとけ
会期:2019年6月18日(火)~9月23日(月・祝)
会場:東京国立博物館 本館1階11室(彫刻展示室)
住所:東京都台東区上野公園13-9
電話番号:03・5777・8600(ハローダイヤル)
https://www.tnm.jp
開館時間:9時30分から17時まで、金・土曜日は21時まで、9月20日・21日の金・土曜日は22時まで(入館は閉館30分前まで)
休館日:月曜日(ただし7月15日、8月12日、9月16日は開館)、7月16日(火)、9月17日(火)
取材・文/池田充枝