明治時代以降、茶道を趣味とする財界人・政界人が、名物道具をこぞって収集するようになりました。そんな数寄者(すきしゃ)と呼ばれる人々のコレクションをもとにした私立美術館が、日本国内には多くあります。

そのなかの一つが、住友グループの基礎を築いた住友家15代当主春翠(しゅんすい)のコレクションを所蔵品の中心とする泉屋博古館(せんおくはくこかん)です。

東京にある泉屋博古館分館では、春翠の生誕150周年を記念し、春翠が建てた天王寺茶臼山(ちゃうすやま/今の大阪市立美術館・慶沢園)本邸を飾った美術品を紹介する展覧会が開かれています。

この展覧会を担当した、泉屋博古館分館学芸員、森下愛子さんに見どころを伺いました。

「邸宅内に十数カ所あったとされる床の間を飾った古美術の名作や、茶会で披露された小堀遠州(こぼりえんしゅう/江戸時代の茶人)好みの茶道具の逸品、近代日本美術の逸品とともに、それらが飾られた今はなき茶臼山本邸の様子を伝来資料などで紹介します。

近代の数寄者が心をこめて飾った舞台に思いを馳せながら、美術品を鑑賞していただけるまたとない機会です」

「佐竹本三十六歌仙絵切 源信明」鎌倉時代・13 世紀 泉屋博古館

「佐竹本三十六歌仙絵切 源信明」鎌倉時代・13 世紀 泉屋博古館

「佐竹本三十六歌仙絵切 源信明」は、もとは秋田藩主佐竹家に伝わった二巻の絵巻。三十六人の歌人を描いたものでしたが、大正時代に売り立てられた際、あまりにも高額であったため絵巻の状態のまま購入できる人が現れず、切り分けられ、抽選で財界の数寄者たちに売られました。

ほとんどの図が最初の所蔵者のもとを離れ流転するなか、この「源信明」は住友家が現在まで守ってきました。茶人であれば、茶掛けとして見せびらかしたくなること請け合いですが、春翠は存命中、茶席に掛けなかったそうです。春翠の人柄がしのばれます。

伊藤若冲「海棠目白図」 江戸時代・18 世紀 泉屋博古館

伊藤若冲「海棠目白図」 江戸時代・18 世紀 泉屋博古館

春翠は茶道具としての美術品以外も集めていました。伊藤若冲の大幅「海棠目白図」がその一つです。

森下さんによると、この作品は茶臼山本邸で開かれた最も大きな宴で裏書院の床の間を飾ったものだといいます。

「春翠の好む絵画は典雅で清楚な趣をたたえ、抑制のきいたほどよい装飾性をもった作品が多いです。近年個性派として名高い伊藤若冲でも、比較的初期の平明で自然な描写が際だつ本作品を好んだようです」

近代の陶芸家、板谷波山(いたや・はざん)の花瓶なども展示され、幅広い内容になっていますが、春翠という一人の人物の美意識によって全体が貫かれているため、統一性のある心地よい展示となっています。

【住友春翠生誕150年記念特別展 バロン住友の美的生活―美の夢は終わらない。 第2部 数寄者住友春翠―和の美を愉しむ】
■会期/2016年6月4日~ 8月5日
■会場/泉屋博古館分館
泉屋博古館のサイトはこちら
■住所/東京都港区六本木1-5-1
■電話番号/03・5777・8600(ハローダイヤル)
■料金/一般800円(640円) 学生600円(480円) 中学生以下無料 ( )内は20名以上の団体料金
■開館時間/10時から17時まで(入館は閉館30分前まで)
■休館日/月曜日(ただし7月18日は開館)、7月19日(火)
■アクセス/東京メトロ南北線六本木一丁目駅下車徒歩5分、日比谷線神谷町駅下車徒歩10分、銀座線溜池山王駅下車徒歩10分

取材・文/藤田麻希
美術ライター。明治学院大学大学院芸術学専攻修了。『美術手帖』などへの寄稿ほか、『日本美術全集』『超絶技巧!明治工芸の粋』『村上隆のスーパーフラット・コレクション』など展覧会図録や書籍の編集・執筆も担当。

 

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