取材・文/池田充枝
日本画の巨匠・奥村土牛(おくむら・とぎゅう1889-1990)は、画家志望であった父親のもとで10代から絵画に親しみ、梶田半古(かじた・はんこ)の画塾で生涯の師となる小林古径(こばやし・こけい)に出合います。
38歳で院展初入選と遅咲きでありながら、展覧会に出品を重ねて40代半ばから名声を高め、半古や古径から学んだ写生や画品を重視する姿勢を生涯貫き、「絵を通して伝わってくるのは作者の人間性」という自らの言葉を体現するような作品を数多く生み出しました。
土牛という雅号は、中国・唐時代の詩の一節「土牛石田を耕す」に由来します。その名を糧に、地道に画業に専心し、80歳を過ぎてなお「死ぬまで初心を忘れず、拙くとも生きた絵を描きたい」と語り、100歳を超えても絵筆を取り続けました。
101歳の生涯を通じて残した、珠玉の土牛作品が一堂に会する展覧会が開かれています。(3月31日まで)
山種美術館は、奥村土牛が無名であった頃から支援し、約半世紀にわたり交流を続けた縁から屈指の土牛コレクションで知られます。本展では135点のコレクションから厳選した約60点を展観します。
本展の見どころを、山種美術館の館長、山﨑妙子さんにうかがいました。
「1966年、東京・日本橋兜町に開館した山種美術館は、2009年に渋谷区広尾に移転してから10年目となります。その記念すべき年の第一弾として、生誕130年を迎える日本画家・奥村土牛の特別展を開催しております。
土牛先生とは、当館創立者の祖父・山﨑種二、二代目館長の父・富治、そして私と親子三代にわたって、半世紀以上ものあいだ格別のご縁をいただきました。作品から受ける印象そのままの優しく温かなお人柄で、土牛先生はいつも接して下さいました。なかでもご長命でいらした土牛先生の百寿を、父とともにお祝いさせていただいたことは私にとって素晴らしい思い出です。そのようなご縁もあって、土牛先生の院展出品作のほとんどを購入させていただき、現在、当館は日本屈指の土牛コレクションで知られています。
本展では、そのうち選りすぐった代表作を展示しております。特に、瀬戸内海の渦潮の流れを抑えた色使いで表現した《鳴門》や、満開の枝垂れ桜を格調高く描いた《醍醐》などを中心に、当館所蔵の院展関連作品を全点展示いたしました。是非この機会に、清澄な明るさと対象を慈しむようなまなざしを通した、奥村土牛の世界をご堪能ください。」
100歳にして果敢に画業に挑む画家の情熱に心動かされる展覧会です。ぜひ会場に足をお運びください。
【開催要項】
山種美術館 広尾開館10周年記念特別展 生誕130周年 奥村土牛
会期:2019年2月2日(土)~3月31日(日)
会場:山種美術館
住所:東京都渋谷区広尾3-12-36
電話番号:03・5777・8600(ハローダイヤル 受付時間8:00~22:00)
http://www.yamatane-museum.jp/
開館時間:10時から17時まで(入館は16時30分まで)
休館日:月曜日(ただし2月11日は開館)、2月12日(火)
取材・文/池田充枝