取材・文/池田充枝

1968(昭和43)年11月、皇居新宮殿が完成され、竣工式が行われました。時代と伝統、そして文化を象徴する建築として設計されたこの宮殿には、国内外の賓客を至高の日本美術で迎えるために、当時の日本画壇の錚々たる作家の作品が飾られました。

当時、この新宮殿内に飾られた美術品の数々を実際に目にする機会を得た、山種美術館創立者の山﨑種二(1893-1983)は、深く感銘を受けたといいます。より多くの人々にこの優れた作品をご覧いただきたいという願いから、宮殿装飾を手がけた日本画家に同趣向の作品制作を依頼しました。

この山﨑種二が依頼した新宮殿装飾と同趣向の作品と皇室ゆかりの美術品が一挙に公開される展覧会が開かれています。(2019年1月20日まで)

山口蓬春《新宮殿杉戸楓4分の1下絵》

山口蓬春《新宮殿杉戸楓4分の1下絵》19674(昭和42)年 紙本・彩色 山種美術館蔵 (C)公益財団法人JR東海生涯学習財団

特別展 皇室ゆかりの美術 ―宮殿を彩った日本画家―   (会場:山種美術館)

本展では、同館所蔵の昭和期の新宮殿ゆかりの作品を4年ぶりに一挙公開するとともに、同館所蔵の天皇の手になる書(宸翰)や宮家旧蔵の日本画、そして他所蔵の宮家伝来の絵巻、皇族から下賜された美術工芸品、皇居造営下絵など、近世から現代までの皇室と深い関わりをもつ名品をご紹介いたします。さらに、1890(明治23)年に皇室による美術の保護奨励の目的で設置された帝室技芸員制度にも注目します。

本展の見どころを、山種美術館の館長、山﨑妙子さんにうかがいました。

「今回の展覧会は、会場を、『皇室と美術―近世から現代まで』、『宮殿と日本画―皇居造営下絵と宮殿ゆかりの絵画』、『帝室技芸員―日本美術の奨励』という3つのセクションで構成します。

『皇室と美術』では、20年ぶりの公開となる誠仁親王(陽光院)《着到和歌》(山種美術館)や後陽成天皇《和歌巻》を含む天皇、皇族の書や、野口小蘋《箱根真景図》(竹田宮家旧蔵)、下村観山《老松白藤》(伏見宮家旧蔵)、西村五雲《松鶴》(久邇宮家旧蔵)など当館所蔵の宮家旧蔵品をご紹介。さらに、他所蔵の高松宮家伝来の絵巻や、皇室の御慶事などの引き出物として知られるボンボニエールなども展示します。

《犬張子形ボンボニエール》1934(昭和9)年 銀 【皇太子(天皇陛下)御誕生御内宴】

《犬張子形ボンボニエール》1934(昭和9)年 銀 【皇太子(天皇陛下)御誕生御内宴】

下村観山《老松白藤》1921(大正10)年 紙本金地・彩色 【伏見宮家旧蔵品】山種美術館蔵

下村観山《老松白藤》1921(大正10)年 紙本金地・彩色 【伏見宮家旧蔵品】山種美術館蔵

『宮殿と日本画』では、荒木寛畝や渡辺省亭、竹内栖鳳、横山大観などがご下命を受けて宮殿や御所の室内装飾のために描いた日本画に加え、私の祖父・山﨑種二が昭和の新宮殿の室内装飾に携わった安田靫彦、山口蓬春、上村松篁、橋本明治、東山魁夷、杉山寧という6人の画家たちに直接依頼をし、当館のために描いていただいた宮殿ゆかりの作品群を4年ぶりに一挙公開します。この機会に、種二が感動した宮殿の日本画がどのようなものであったかを、皆様に是非体感していただければと思います。

山口蓬春《新宮殿杉戸楓4分の1下絵》

渡辺省亭《赤坂離宮下絵 花鳥図画帖》のうちの「尉鶲に牡丹」1906(明治39)年頃 絹本・彩色 【東宮御所(現・迎賓館赤坂離宮)の七宝額のための下絵】東京国立博物館蔵 ※前期(11月17日~12月16日)展示 Image: TNM Image Archives

『帝室技芸員』では、明治23年に皇室(帝室)の保護のもとに優れた日本美術を奨励し顕彰する目的で設置された制度に注目します。ここでは、第1回の任命で選ばれた柴田是真、森寛斎、橋本雅邦から、大正から昭和期に任命された竹内栖鳳、下村観山、川合玉堂、横山大観、最後となった昭和19年(第13回)に任命された鏑木清方、前田青邨、平櫛田中らまで、明治から昭和の巨匠たちの名品をご覧いただきます。さらに、ただ二人の女性の帝室技芸員であった野口小蘋と上村松園や、黒田清輝、和田英作らの洋画、近年人気の高い、並河靖之、濤川惣助、香川勝廣らの超絶技巧が魅力の明治工芸もご覧いただきます」

並河靖之《花鳥図花瓶》

並河靖之《花鳥図花瓶》19-20世紀(明治時代)七宝 【1896(明治29)年に帝室技芸員任命】

皇室ゆかりの貴重な美術品を目にできるまたとない機会です。ぜひ会場に足をお運びください。
【開催要項】
特別展 皇室ゆかりの美術 ―宮殿を彩った日本画家―
会期:2018年11月17日(土)~2019年1月20日(日)※会期中一部展示替えあり
(前期:11/17-12/16、後期:12/18-1/20)
会場:山種美術館
住所:東京都渋谷区広尾3-12-36
電話確認:03・5777・8600(ハローダイヤル)
http://www.yamatane-museum.jp/
開館時間:10時から17時まで(入館は16時30分まで)
休館日:月曜日(ただし12月24日、1月14日は開館)、12月25日(火)、1月15日(火)、年末年始(12月29日~1月2日)

取材・文/池田充枝

 

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