取材・文/池田充枝
1880年代末から90年代にかけて、ゴーギャンの崇拝者であるポール・セリュジエはじめ、ピエール・ボナール、エドゥアール・ビュイヤール、モーリス・ドニらがパリで結成した芸術家のグループがナビ派(「ナビ」とはヘブライ語で「預言者」の意味)です。
彼らはゴーギャンやルドンの影響をうけた平面的・装飾的な構成を重視。美的・空間的に秩序づけられた平面としての絵画を探求するという観点から、ポスター・デザイン、テキスタイル、装丁、舞台美術など、いわゆるファインアート以外のものも手がけ、アール・ヌーヴォーの先駆的役割を果たしました。
なかでもナビ派の一員として画家への道を出発したピエール・ボナール(1867-1947)は、日本の浮世絵版画に多くの影響をうけ、繊細かつ奔放なアラベスクと装飾モティーフが特徴的な絵画を多く描きました。
近年評価の高まっているナビ派の中心人物、ピエール・ボナールに注目した展覧会が開かれています。(12月17日まで)
オルセー美術館特別企画 ピエール・ボナール展 (会場:国立新美術館)
本展は、オルセー美術館の豊富なコレクションを中心に、国内外のコレクションも加えて、130点を超える作品で構成されるボナールの大規模な回顧展です。油彩72点、素描17点、版画・挿絵本17点、写真30点といったさまざまなジャンルを通じて、謎多き画家ボナールの魅力に迫ります。
本展の見どころを国立新美術館の研究員、米田尚輝さんにうかがいました。
「ナビ派の一員としてパリで活動していたボナールは、「日本かぶれのナビ(ナビ・トレ・ジャポナール)」と称されるほど日本美術に愛着を持っていました。本展ではその影響がよく現れているナビ派時代の作品はもちろんのこと、リトグラフによるポスターや本の挿絵といったデザインに関わる仕事、そして画家が画業の着想源のひとつとしていた写真など、ボナールの多彩な側面を紹介します。
ボナールは、生涯の伴侶マルトをはじめ、複数の女性をモデルとして数多くの裸婦像を描いています。これらの女性たちもまた、画家にとっての重要な芸術的霊感源のひとつでした。本展では、ボナールの代表的シリーズといえるこれらの裸婦画に一室を割いており、たいへん見応えのある部屋になっていると思います。
また、ボナールはパリを離れ、ノルマンディー地方や南フランスにも滞在し、モネやその他の画家たちとの交流を通じて、色彩の探究に没頭するようになります。身近な主題を描き続けたボナールは、目にした光景の鮮烈な印象を絵画化することに専心します。その作品には、思いがけない構図や複雑に響き合う色彩によって、何気ない情景に緻密な仕掛けが施されています。「視神経の冒険」というボナールの謎めいた言葉を頭の片隅に置きながら作品を見ることで、これまでにない観賞の経験を味わうことができるのではないでしょうか」
ボナールの多彩な、しかしどこか不思議な表現世界を、ぜひ会場でご堪能ください。
【開催要項】
オルセー美術館特別企画 ピエール・ボナール展
会期:2018年9月26日(水)~12月17日(月)
会場:国立新美術館 企画展示室1E
住所:東京都港区六本木7-22-2
電話番号:03・5777・8600(ハローダイヤル)
http://bonnard2018.exhn.jp
開館時間:10時から18時まで、金・土曜日は20時まで、9月28日(金)・29日(土)は21時まで(入場は閉館の30分前まで)
休館日:火曜日
取材・文/池田充枝