取材・文/ふじのあやこ

家族との関係を娘目線で振り返る本連載。幼少期、思春期を経て、親に感じていた気持ちを探ります。~その1~はコチラ

今回お話を伺ったのは、都内のメーカーで働いている有希さん(仮名・32歳)。千葉県の出身で、両親との3歳上に兄がいる4人家族。有名大学への進学を機に親の勧めで都内で一人暮らしを始めます。初めての彼氏もでき、大学生活を満喫する一方、実家との距離は大きくなっていったそうです。

「一人暮らしを始めた当初はやっぱり寂しくて、週末によく帰っていたんです。でもその度に母親は喜んでくれるんですけど、父親は『またいる』みたいな顔をするんですよね。そんな雰囲気を感じて、徐々に実家に帰る頻度は低くなっていきました。大学3年の頃には母親から帰って来いと電話の催促があるほどになっていました。電車で1時間ほどの距離なのに、帰るのはお盆やお正月、それに法事などの行事のみになっていましたね」

救急車で運ばれた父親に寄り添ったのは母と兄。私だけ蚊帳の外だった

大学では中の上ぐらいの成績を収めた有希さんですが、就職活動には苦戦。希望していたIT企業は全滅してしまいます。最後にはなんとか広告代理店で営業事務の仕事に就くことができたそう。しかし、就職できたことよりも、ダメだったところばかり目に付いて、しばらくは凹んでいたと言います。

「学生時代は成績も良くて、希望した高校、大学とともに進学できていました。その時まで大きな挫折を味わったことがなかったんです。でも、就職活動ではとことん自分は社会に必要がない人間だと周りに示され続けた。学があるという自信が粉々になるほど、とても辛かったです。書類を経て面接までいけたところもありましたが、面接でその会社の人と会うと、うまくいかなくなってしまって……。不採用の連絡がある度に眠れないなんてこともありました。

20社以上を受けてやっと内定がもらえた会社だったんですが、友人には大手に入る子もいて、正直まったく嬉しくなかった。劣等感で潰されそうだったんです。でも、就職が決まったことを両親に報告すると、『今までの人生で誇れるものがたくさんあるんだから胸を張りなさい』と言われたんです。『おめでとう』と、『よく頑張った』って褒めてくれました」

就職後も大学時代と同じマンションで一人暮らしを継続。仕事は忙しかったものの、行事ごとには帰省していたとのこと。そんな生活を何年も続ける中、父親が吐血して病院に運ばれたことがあったそう。しかしその日付を有希さんは知らないと言います。

「教えてもらえなかったんです。私が知ったのは兄が教えてくれたから。それも私が知っていると思って兄が話したことで知ることができただけです。父親は入院もしていたのに、そのことさえ教えてもらえなかった。家族なのに、疎外感がいっぱいでした。母親にそのことを問い詰めても謝るばかり。もう何がなんだかわからない状況でした」

母親が始めてみせた取り乱した姿。家族だからこれからは意地でも側にいる

有希さんが知った時にはすでに父親は退院しており、すでに職場に復帰していました。しかし安心したのはほんのつかの間で、その後父親は再入院。実は有希さんの知らない少し前から、入退院を繰り返すようになっていたそうです。

「再入院したことは母親が教えてくれました。そしてそこで始めて取り乱す母親を見ました。父親は肝臓を悪くしていて、最初は炎症だったようなんですが、私が教えてもらった時には肝硬変になっていました。そしてその肝硬変もずいぶんひどくなっているようで、腹水が発症するようになっていて、それを定期的に入院して抜いていたんです」

その後、有希さんは一人暮らしのマンションを出て、実家に戻ります。実は就職を機に一度実家に戻ろうとしたそうですが、父親の反対に合い断念。しかし今回は受け入れてくれたそう。

「一度実家に戻ろうとしたのは母親にお願いされたから。もしかしたらその時から父の体は万全ではなくて、母親は不安だったのかもしれません。でもその時は父親が出戻ってくるなって反対したんです。

これまで母親は父親の言うとおり、私に父の容態を黙っていました。でもそれが母親の中で黙っていることができないほど大きなことになった。そのことを理解した父は私の出戻りを認めてくれました。私より、母親のために今回は認めてくれた気がします」

有希さんの父親は現在仕事を退職し、自宅療養を続けているそうです。日に日に細く弱々しくなる父を見るのは辛いと言いながらも、「知らないところで倒れられているような恐怖を感じるぐらいなら最後まで側に意地でもいてやろうと思っています。実は私は今婚約中で、来年結婚します。兄はまだ未婚なので、せめて1人だけでも両親を早く安心させてあげられれば」と有希さんは語ります。

取材・文/ふじのあやこ
情報誌・スポーツ誌の出版社2社を経て、フリーのライター・編集者・ウェブデザイナーとなる。趣味はスポーツ観戦で、野球、アイスホッケー観戦などで全国を行脚している。

 

 

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