取材・文/わたなべあや
大阪の繁華街といえば、中心をなすのはキタとミナミ。しかし、本当に美味しいものを食べさせる店は、その周辺にもたくさんあります。今回は、その中でも知る人ぞ知る洋食の老舗『源ちゃん』をご紹介します。
■創業84年の老舗洋食レストラン
大阪に老舗と言われる店は数あれど、洋食といえばはずせないのが大阪市の南端、住之江区にある『源ちゃん』です。
当時、花街だったこの地域には、うなぎや寿司を食べられる店が軒を連ねていました。『源ちゃん』は昭和11年に創業し、現在は二代目、子田憲一(こだ・けんいち)さんが腕を奮っています。創業時は、まだまだカレーやシチューなどの洋食が珍しい時代、さぞかし洒落た店であったことでしょう。
戦後、花街から住宅地へと変遷し、現在、町に残っている飲食店は『源ちゃん』だけ。大阪市内中心部の繁華街からは離れているのですが、『源ちゃん』の料理を食べるために、遠方から足を運ぶ人も少なくありません。
喫茶店のような感じの入り口は敷居が低く、一見さんでもふらっと入りやすい雰囲気。店内に入ると、歴史を感じさせるピカピカに磨き上げられた椅子やテーブルが並び、木の温もりあふれる空間が広がっています。オーナーシェフの子田さんや、奥様との気さくな会話も楽しみのひとつ。カウンターに腰掛けると、活気あふれるキッチンの様子を肌で感じることができます。
■お好み焼きから誕生した名物「やまいものグラタン」
伝説的なフレンチの名店『アラスカ』で修行を積んできた子田さんは、デミグラスソースが洋食の命だと言います。3週間もかけて煮込むデミグラスソースをはじめ、コンソメスープも、フレンチの確かな技法が根底にある本格派。どの料理も洗練を極めています。
なかでも「肉料理に自信あり」という源ちゃんですが、子田さんが若かりし頃に考案した「やまいものグラタン」も不動の人気。グラタンなのですが小麦粉を使わず、ソースをやまいもと牛乳で作っています。
実は、「やまいものグラタン」が誕生したきっかけは、お好み焼き。子田さんは若かりし頃、奥様がいきつけにしていたお好み焼き屋さんに二人でランチに出かけました。なぜか男子禁制というお好み焼き屋さんだったのですが、奥様が常連だったので無事に入店。小麦粉を使わず、やまいもだけでタネを作ったお好み焼きが、非常に美味しかったそうです。
以来、そのタネをアレンジした一口サイズのお好み焼きを作るなど工夫を重ね、「やまいものグラタン」が誕生。お店のメニューに加わりました。
フレンチがベースになってはいるものの、バターの濃厚な風味が前に出過ぎるのは避けたいという子田さん。バターを使っていないソースは、やまいものねっとりとした粘りと牛乳の甘みのバランスが絶妙で、パルメザンチーズが焦げた香りが幸福感をもたらします。
具材はエビとマッシュルームで、手作りのドライパセリがスパイシー。口に含むとすっととろける食感がたまりません。派手な料理ではありませんが、数あるメニューの中でも長く支持されている一品です。
客の「もう一品食べたいんやけど、何かない?」という要望に応えて、好みのものを思い出しながら、ささっと即興で料理を作ってきたという子田さん。そこから誕生した定番料理も数多くあります。『源ちゃん』は、まさに舌のこえた関西人が育んだ洋食店です。
【今日の旨い店】
『源ちゃん』
大阪府大阪市住之江区御崎1-7-1
電話:050-5593-0322
営業時間:11:30~14:00/16:30~21:00
定休日/火曜
取材・文/わたなべあや
1964年、大阪生まれ。大阪芸術大学文芸学科卒業。2015年からフリーランスライター。最新の医療情報からQOL(Quality of life)を高めるための予防医療情報まで幅広くお届けします。趣味と実益を兼ねて、お取り寄せ&手土産グルメも執筆。