歴史の教科書でもお馴染の『解体新書』の挿絵を描いた、小田野直武(おだのなおたけ)の展覧会がサントリー美術館で開かれています(来年1月9日まで)。
直武は、「秋田蘭画」という、江戸時代中頃に秋田藩の武士が手掛けた阿蘭陀(オランダ)風の絵画を生み出したことで、知られています。
1749(寛延2)年、秋田藩の槍術指南役の家に生を受けた直武は、1773(安永2)年、藩主の命で、本草学者・発明家の平賀源内のもとに派遣されることになり、江戸に上ります。
当時は八代将軍徳川吉宗によって、漢訳した洋書の輸入が解禁され、西洋学問への関心が高まっていた時代でした。直武は「銅山方産物吟味役」という名目で上京したのですが、源内のもとで蘭学資料や、ヨーロッパの図像に触れ、西洋の画法をみるみるうちに摂取。
もともと武士のたしなみとして書画に親しんでいたこともあり、江戸に出てわずか8か月後には『解体新書』の挿絵を描くのです。
秋田蘭画というと「蘭画」という名が示す通り、これまでは西洋画の描法を取り入れた絵というイメージが先行していたように思います。しかし、今回の展覧会には、中国に由来する南蘋派(なんぴんは)からの影響を紹介する章が設けられ、秋田蘭画に対する新たなイメージを与えてくれます。
南蘋派(なんぴんは)は、長崎に渡ってきた清の画家、沈南蘋(しんなんぴん)の色鮮やかで写実的な花鳥画のスタイルを踏襲する一派。18世紀後半に大流行し、伊藤若冲をはじめ、多くの絵師が感化されました。直武は平賀源内と交流のあった、南蘋派の画家から技法を学んだと考えられています。
そうして、生み出されたのが、「不忍池図」や「鷺図」などです。サントリー美術館学芸員の内田洸さんは次のように説明します。
「拡大した近景を迫真的に描いて、奥行きのある空間を配する構図、このような独特の構図が秋田蘭画の特徴の一つです。南蘋派など東洋美術の写実的な表現と、遠近法や陰影法といった西洋画法が組み合わさり、独特の作品に仕上がっています」。
たしかに手前の芍薬や鷺は写実的に描かれ、遠くの景色は洋風の描法でかすみがかったように描かれ、遠近感が強調されています。東西を融合した不思議な絵画を、会場でご堪能ください。
【世界に挑んだ7年 小田野直武と秋田蘭画】
■会期/2016年11月16日(水)~2017年1月9日(月・祝)
※作品保護のため会期中、展示替を行ないます。
■会場/サントリー美術館
■住所/東京都港区赤坂9-7-4 東京ミッドタウン ガレリア3階
■電話番号/03・3479・8600
■料金/一般1300円 高・大生1000円 中学生以下無料
※障害者手帳をお持ちの方は、ご本人と介護の方1名様のみ無料
※100円割引
・きものでのご来館
・ホームページ限定割引券提示
・携帯/スマートフォンサイトの割引券画面提示
・あとろ割:国立新美術館、森美術館の企画展チケット提示
・20名様以上の団体
■開館時間/10時~18時(金・土は10時~20時)
※12月22日(木)、1月8日(日)は20時まで開館
※いずれも入館は閉館の30分前まで
■休館日/火曜日
※1月3日(火)は18時まで開館
※12月30日(金)から1月1日(日・祝)は年末年始のため休館
■アクセス/都営地下鉄大江戸線六本木駅出口8より直結、東京メトロ日比谷線六本木駅より地下通路で直結、東京メトロ千代田線乃木坂駅出口3より徒歩約3分
取材・文/藤田麻希
美術ライター。明治学院大学大学院芸術学専攻修了。『美術手帖』