文/堀けいこ
新国立劇場オペラ2021/2022シーズンを締めくくる7月公演には、ドビュッシーが残した唯一のオペラ作品である『ペレアスとメリザンド』が登場。フランス・オペラの金字塔と言われながらも、日本での上演機会が少ない演目。しかも、今、最も注目されるイギリスの演出家ケイティ・ミッチェルによる新国立劇場新制作の舞台ということで、初日が近づくとともに注目度が高まっている。
フランス・オペラの真髄を知る、またとない機会
フランス・オペラの真髄を伝えたいと、新国立劇場オペラ部門の芸術監督・大野和士が今シーズンの最終演目に選んだのがドビュッシーの『ペレアスとメリザンド』。原作は、世界中で親しまれた不滅の夢幻童話劇「青い鳥」で知られるベルギーのメーテルリンクがフランス語で書いた戯曲。フランス独自のオペラを目指したドビュッシーは、同戯曲と巡り合い、そこに描かれた光や水、霧や風といった自然の息吹を、陰影に富んだ音楽に移し替えた。パリ、オペラ=コミック座での初演は1902年。フランス語の滑らかな抑揚と音楽とを融合させて、登場人物の苦悩や感情の起伏を見事に描き出したオペラとなった。
物語は、狩の途中で道に迷ったアルモンド王国の王太子ゴローが、泉の傍で泣いている美しいメリザンドを見つけ、連れ帰ることから始まる。メリザンドを妻に迎えようとするゴローだが、異父弟のペレアスもまたメリザンドに惹かれ、二人は心を通わせ始める。紆余曲折の果て、ついに愛を告白し合う二人。それを目撃したゴローは、ついに逆上し……。
いくつかの情景や台詞は削除されてはいるものの、メーテルリンクの戯曲が、ほぼそのまま台本に生かされている。日本語訳も出版されているので、オペラを観る下準備として読んでおくのもおすすめだ。
中世の物語が現代的なドラマに蘇る新解釈に期待
新国立劇場では新制作となる『ペレアスとメリザンド』の演出を手がけるケイティ・ミッチェルは、演劇とオペラの世界で、その先鋭的な活動が高く評価されているイギリス人演出家。『ペレアスとメリザンド』の物語は、元々は中世の架空の王国の城が舞台だが、ミッチェルのプロダクションでは、ある一家へやって来た女性メリザンドの夢想という形をとった現代的なドラマとして蘇る。この演出版はフランスの「エクサンプロヴァンス音楽祭」で2016年に初演され、大絶賛を浴びている。それだけに、新国立劇場新登場には期待が高まる。
そして今回の新国立劇場版『ペレアスとメリザンド』には、フランス・オペラの旗手として活躍する歌い手たちが世界から集結。日本人歌手も含め、大野和士オペラ芸術監督が胸を張る自信のキャスティングとなっている。
「コロナの影響で、全面的にキャスティングし直さなければならなかった公演もありました。様々な制限がありながらも質の高い公演を続けることによって、聴衆の皆さんもそれを心深く感じてくださり熱気あふれる反応をいただきました」と、2021/2022シーズンを振り返る大野氏(新国立劇場情報誌「ジ・アトレ」6月号より)。
オペラ芸術監督就任4年目のシーズンを締めくくる『ペレアスとメリザンド』では、世界的な指揮者でもある大野氏自身がタクトを振る。その勇姿を目に留めるためにも、ぜひ観ておきたい公演だ。
新国立劇場 2021/2022シーズンオペラ
C.A.ドビュッシー『ペレアスとメリザンド』
[全5幕/フランス語上演 日本語・英語字幕付]
公演日 7月2日(土)~7月17日(日)
会場 新国立劇場 オペラパレス/東京都渋谷区本町1-1-1
https://www.nntt.jac.go.jp/opera/pelleas-melisande/
問い合わせ 電話:03・5352・9999(ボックスオフィス)
新国立劇場オペラサイトhttps://www.nntt.jac.go.jp/opera/
新国立劇場では、新型コロナウイルス感染拡大予防への取り組みが実施されます。詳しい内容は新国立劇場のウェブサイトで確認を! https://www.nntt.jac.go.jp/release/detail/23_017576.html
文/堀けいこ