マネジメント課題解決のためのメディアプラットホーム「識学総研(https://souken.shikigaku.jp)」が、ビジネスの最前線の用語や問題を解説するシリーズ。

厚生労働省は「高年齢者雇用機会安定法」を改正し、2021年4月より事業主に対して70歳までの定年延長や継続雇用制度の導入などの努力義務を設けることにしました。また、一方では、少子高齢化に伴い、今やミドル・シニアは労働力として欠かせない存在になっています。そのため、今回は 「シニア社員(50代以上)」が力を発揮するには「組織の環境整備をどうすべきか?」、「社員教育をどうするのか?」を一緒に考察していきましょう。

1:組織の一員として認識させる

社長や部長より年上のシニアもいますが、年齢や社歴などで特別扱いをしてはいけません。特別扱いとは、組織ルールの違反を許すことです。そのような環境下では、利己的な社員が増えて、都合の良いことしかしなくなるでしょう。すると、周りの人もルールを守らなくなり、無秩序な組織になります。

そもそも、所属意識(組織の一員と認識させる)とは、「同一ルール下=同一コミュニティ」です。野球チームで、監督が定めたルール(練習はサボらない。練習が終わったら全員で掃除する)を守らない人は、個人利益を優先とする「利己的な人=所属意識が乏しい」と言えます。まず、組織のルールを明確に定めて、守らせることで組織の一員の認識を持たせられます。

2:自分は誰から評価を獲得すべき存在なのかを明確にする

社長の評価者はマーケット(お客様)です。お客様の評価を獲得するために社長は部長に求める成果を設定し、部長は社長の評価を獲得するために課長に求める成果を設定します。つまり、上位層から求める成果が下位層に設定されます。よって、一つ上の評価者の評価を獲得すると社長は市場の評価を獲得できます。

この上司部下のルールや役割の関係に社歴や年齢などの要素が入ると、シニア部下がミドル上司を評価者と認識しなくなるケースがあるため、注意が必要です。また、課長は監督、部下はプレイヤーとなり、それぞれ役割・責任が異なるため、評価者は誰なのか、認識をズラさないことが重要です。

3:評価を得るために、どのような責任を果たすかを設定する

「給料分働くとはどのような状態か(=責任範囲)」を明確にします。例えば、営業部なら「年度予算の達成」、エンジニアなら「新サービスのリリース」、管理部門なら「コスト削減企画の立案」などです。よって、従来の年功給(シニア>ミドル)ではなく、責任と給与が比例する、成果型の評価制度に変えていく必要があります。

4:責任を果たすために「責任=権限」をセットで与える

無責(責任<権限)のケースとは?

シニア(社歴や年齢)を優遇すると、例えば、部長なのに部下がいない実質プレイヤーといった、組織図では説明することができない、既得権益者(責任<権限)が発生することがあります。組織図のポジションに紐づく「役割・責任・権限」を明確にするため、人の顔を抜いて組織図から作成することが必要です。

免責(責任>権限)のケースとは?

ほとんどの会社では、与えられる責任に対して、権限が足りていません。上司は、責任と権限をセットで与えるようにします。ただし、「責任>権限」になるケースが多いので、上司に対して躊躇なく、権限の上申(提案やルール変更案)を行うことが大切です。特に、上司は定例MTGで、「〇〇さん、欲しい権限や、ルール変更して欲しいことはありませんか?」と質問してみてください。何もでなければ、部下は集中してゴールに向かっている状態といえるでしょう。

5:責任を果たせない時はマイナス評価が入る環境を作る

日本の企業は、マイナス評価を入れると、「部下がかわいそう。辞めてしまうのではないか。余計なストレスをかけてしまう」と考えている経営者が多いですが、実はその逆です。

マイナス評価がないと、「本人の評価」と「周りの評価」がズレます。つまり、本人は「マイナス評価ではない=現状維持」と考えているのに、周りの印象評価がマイナスであった場合、そのギャップが開き続けていくと、降格や異動、リストラ対象になります。それが本当の優しさでしょうか?

本当の優しさとは、「周りの評価が落ちている=マイナス評価」であると教えてあげて、不足としっかり向き合わせて、責任を果たすための提案を承認してあげる(責任=権限)ことです。

成長とは「できなかったことが、できるようになること」です。つまり、「しゃがんで、伸びる」です。ミドルの上司は、シニアの部下に遠慮せず、成長のために不足に向き合わせてください。

6:競争環境を作る

大切なのは、年齢や社歴問わず、健全な競争環境を作ることです。未達時は、達成者の達成した事実を示すと言い訳は排除できます。よって、ルールを明確にして、役割を明確にして、平等に采配して、事実情報が上がってくる前提ですが、部下と少々距離感をとることです。この上司と部下の距離感が近過ぎると、未達成の原因をルール側に責任転嫁(上司に愚痴や言い訳が上がってくる関係)をし易くなりますが、適切な距離によりルールは前提条件に変わります。

7:成長を実感⇒モチベーションを発生

モチベーションとは、ゴールを切った後に本人の中から勝手に発生する感情(達成感や成長感を実感する状態)です。よって、上司は部下に、モチベーションが正しく発生する管理が必要です。

そのため、上司は週1回のペースで部下が目測できるゴール設定をして、やり方は自分で考えさせて、欲しい権限があれば、上司に上申する流れを作りましょう。人は「性善説」でも「性悪説」でもなく、「性弱説」で、水は低きに、人は易きに流れるため、「頑張らざるを得ない環境」を作ることが求められます。

組織は「2(よくできる人):6(普通の人):2(やらない人)」と言われますが、2割(よくできる人)は自走しますが、8割(普通の人、やらない人)は、放っておくと環境側に言い訳をもって動きが鈍ります。

特に、シニアは経験値が豊富ですが、過去の成功体験(あの時はこうだった、今回もこうだろうという経験)が邪魔をして、行動量が減る傾向にあります。つまり、目まぐるしく変わる環境変化の中で、その成功体験に再現性があるか分からないことが多々あります。そのため、成功体験に縛られず、新しい経験をさせるため、上司は部下を正しく管理することが求められます。

8:進行感を実感(社会的評価)⇒エンゲージメント発生

最後に、人は成長感を認識し、それがモチベーションとなり、個人のエネルギーになります。組織も全く同じで、目的や目標に向かっている進行感が組織の最大のエネルギーの源になります。そのため、社長は3~6か月の期間で「従業員に我々の会社は成長している、社会的価値が上がっている」ということを示してください。それは、売上や利益、顧客数、新規事業の成長など、「成長している」という事実です。そして、「会社の成長に貢献できている」という実感が「もっとこの会社と共に成長したい」という気持ち、エンゲージメントです。

まとめ

労働力不足が深刻化していく日本では、企業にとってシニア社員の活用は欠かせないことになっていきます。今回挙げた8つのポイントを押さえた組織アプローチを行えば、シニア社員の方々はこれまで培ってきた経験や知見を生かしながら新しい経験にも前向きに取り組み、活躍してくれることでしょう。

識学総研:https://souken.shikigaku.jp
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