石川県加賀市にある山中温泉は松尾芭蕉が『おくのほそ道』の道中で9日間滞在した地です。
旅も後半になり疲労も大きくなってきた頃、北陸の名湯とされるこの湯に浸かった芭蕉は、さぞや生き返った心地がしたことでしょう。<山中や菊はたをらぬ湯の匂>と芭蕉は詠んでいます。この山中温泉の湯を浴びていれば、あの長寿延命で知られる中国の伝説の菊を折らなくてもいいでしょうという意味です。
温泉は肌になめらかなアルカリ性のカルシウム・ナトリウム‐硫酸塩泉。総湯「菊の湯」があり、効能豊かな湯が満ちています。
温泉街には芭蕉の資料などを展示する「芭蕉の館」や、名産の山中塗りの漆器や九谷焼の器などを置く店などが並び、そぞろ歩きが楽しめます。また渓流と木々、奇岩などが織り成す美しい渓谷・鶴仙渓もあり、総檜のこおろぎ橋が架かり、遊歩道が整備されています。
春~秋にはあやとり橋近くに、川床も設えられますので、芭蕉も愛でた渓谷の美しさを存分に満喫することができます。
取材・文/関屋淳子
桜と酒をこよなく愛する虎党。著書に『和歌・歌枕で巡る日本の景勝地』(ピエ・ブックス)、『ニッポンの産業遺産』(エイ出版)ほか。旅情報発信サイト「旅恋どっとこむ」(http://www.tabikoi.com)代表。