北海道から沖縄まで、四季折々の花に彩られた日本の風景を撮り続けている写真家・市川 傳(いちかわ・つたえ)さん。花の名所から穴場まで知り尽くす市川さんに、これからの季節に見ごろを迎える花景色の中から、とっておきのスポットを案内してもらいます。写真家ならではの風景撮影のちょっとした技やコツも紹介しますので、カメラを片手に訪ねてみてはいかがでしょうか。
竜頭の滝とトウゴクミツバツツジ(栃木・奥日光)
中禅寺湖から北へ、戦場ヶ原へ向かう途中にある竜頭(りゅうず)の滝は、華厳滝、湯滝と並んで奥日光を代表する名瀑のひとつ。男体山の噴火によってできた溶岩の上を約210mにわたって階段状に勢いよく水が流れ落ちていく渓流瀑です。滝幅は約10m、滝壺から上流にかけては散策路が設けられています。
奥日光に遅い春が訪れる5月下旬、竜頭の滝の両側にトウゴクミツバツツジの高貴な赤紫色の花が咲き始めます。トウゴクミツバツツジは東国の名があるように関東の山地に多いツツジの一種。ミツバツツジより雄しべが多く、華奢(きゃしゃ)で可憐なイメージが特徴です。トウゴクミツバツツジが咲き出すと、凛とした森の中を流れ落ちる竜頭の滝は、まさに”花道”へとその姿を変えるのです。
清冽な滝に彩りを添えるトウゴクミツバツツジの美しい風景を写真におさめるには、滝の最下流にある観瀑台を兼ねた『竜頭之茶屋』周辺がベストポイントです。そして、比較的明るい曇り空の日を狙ってください。というのも、滝は谷間になっているので、天気がよすぎる(太陽光が強すぎる)と、明るい場所と陰になっている場所とのコントラスト(明暗の対比)が強くなって、露出を合わせるのが難しくなります。そうした条件で撮影しても、結局、中途半端な写真になってしまうことが多いですね。
当然ですが、開花のシーズンになると観光客がどっと増えますので、車で移動する場合は混雑を避けるために朝早く出かけ、午前中の弱い光のうちに撮影することをおすすめします。
構図の一例として花にピントを合わせて水の流れをぼかすのも手ですが、ここはオーソドックスに、水の流れをしっかり入れながらカメラの液晶画面、もしくはファインダーの中で安定する構図を確かめながら切り取ります。滝の清涼感と周囲の新緑、滝に彩りを添える赤紫のトウゴクミツバツツジ。この3つの取り合わせこそが、この時期ならではの竜頭の滝の魅力を表現する一枚だと思います。
さて、観瀑台に居座って、長々と撮影している方を見かけますが、それはマナー違反。もし時間をかけてじっくり撮影したければ、撮影代だと思って、『竜頭之茶屋』でお茶を飲みながら、どうぞ。
竜頭の滝
住所/栃木県日光市中宮祠
アクセス/JR日光駅・東武日光駅から湯元温泉行き東武バスで約1時間「竜頭の滝」下車、徒後歩約2分
市川 傳(いちかわ・つたえ)
1945年、東京生まれ。ヨーロッパアルプス登山を機に写真の道に入り、東京写真専門学校卒業後、建築写真を主に撮影しながら、風景写真を学ぶ。北海道から沖縄の自然を四季にわたり撮影し、カレンダー、雑誌等に写真を提供。ライフワークとして、桜・城・花のある風景を撮り続ける。公益社団法人 日本写真家協会会員。
文/関屋淳子