四季折々の花に彩られた日本の風景を撮り続ける写真家・市川 傳(いちかわ・つたえ)さん。花の名所から穴場まで知り尽くす市川さんに、これからの季節に見ごろを迎える花景色の中から、とっておきのスポットを案内してもらいます。
風景撮影のちょっとした技やコツも紹介しますので、カメラを片手に訪ねてみてはいかがでしょうか。
初夏から盛夏まで一面に広がる花々の群生
「花の森四十八滝野草花園」は、岐阜県高山市から飛騨古川方面へ向かう途中にあります。宇津江四十八滝という12の滝が連なる渓谷に隣接してつくられた園地です。広さは約3万5000㎡、自然の地形を生かし、白樺や楢、杉などの森林と植栽される花々の群生を楽しむことができます。
5月下旬~6月中旬にかけてはクリンソウ(九輪草)、6月中旬からはササユリ、7月上旬からはアジサイと、初夏から盛夏にかけて、花の群生が広がります。中でもクリンソウは約15万本という圧倒的な数。園内の遊歩道を歩きながら色鮮やかな花の絨毯を堪能することができます。
クリンソウは、北海道から本州、四国の山間部に分布するサクラソウ科の多年草で、渓谷などの湿り気のある環境を好みます。花径は2cmほどで花の色は濃い紅紫色が一般的ですが、ときにピンクや白なども見られます。草丈は大きなもので90cmほどにもなり、サクラソウ科の中でもっとも大型な部類になります。仏塔の頂上部に付く装飾・九輪に似ていることから、この名があります。
高い位置から狙って花の奥行きを出す
撮影日を選ぶならば、雲ひとつない日差しの強い晴天は避けましょう。花の色をしっかり際立たせるために、雲を待ちながら光が均一に当たるように、3時間ほど粘って撮ったのが、全景の写真です。もちろん人物も入れないようにしました。花の奥行きを出すコツは、ちょっと高い位置から撮影できる場所を探すことです。
ただし、あまり高いアングルにしてしまうと、花と花との空間が目につき、密集度が薄れてしまいます。群生という最大の特徴を画面にうまく納めるためには、アングルに気を配り撮影することが大切です。
また、群生する草花を撮影する際は、花のアップもおさえておきましょう。花そのものも大いに魅力的です。この園地には広い遊歩道があって三脚の使用も可能ですが、花見客の通行の妨げにならないように撮影する気遣いをお忘れなく。
花の森四十八滝野草花園
住所/岐阜県高山市国府町宇津江3232-1
開園/5月下旬~8月初旬、9時~16時
入園料/300円(清掃協力金)
アクセス/JR高山駅から車で国道41号を経由し約30分。
問い合わせ/宇津江四十八滝総合案内所TEL0577-72-3948
市川 傳(いちかわ・つたえ)
1945年、東京生まれ。ヨーロッパアルプス登山を機に写真の道に入り、東京写真専門学校卒業後、建築写真を主に撮影しながら、風景写真を学ぶ。北海道から沖縄の自然を四季にわたり撮影し、カレンダー、雑誌等に写真を提供。ライフワークとして、桜・城・花のある風景を撮り続ける。公益社団法人 日本写真家協会会員。
文/関屋淳子