文/藤原邦康
前回触れた「整顎VASダイエット」についてさらに詳しく解説しましょう。
VASはもともと痛みの主観的評価であることは先述のとおりですが、ここでいうVAS(Visual Analog Scale)は空腹から満腹までの主観に基づく数値基準だと思って下さい。分かりやすいように、自動車のガソリンゲージ(給油メーター)に例えてみましょう。お腹の減りにも、ガス欠から満タンまで10段階の目盛りがあることを想像してください。空腹が「0」、満腹が「10」に相当してます。食べすぎの場合は、もしかしたら「12」とか「13」に達している状態かもしれません。メーターが振り切れたような状態です。主観はあいまいです。気持ちや環境に左右されやすいから、気分のアップダウンが大きいときはVASにもブレが生じやすく、いつの間にか食習慣が乱れてくるケースが多いのが特徴です。
食習慣の乱れを正して日常生活の中でVASを意識する
スリムな人ならごく当たり前だという習慣に近づくように行動マネージメントをしていきましょう。まずは食習慣の乱れを正して日常生活の中でVASを意識することです。
何か食べたくなったらと自分のお腹と相談して、空腹感を数値に置き換えてみましょう。「お腹が空いたと思ったけど実はVASの目盛りは3くらい残っているかな…。まだ食事を先延ばしにできるかも」など、意識することから始めます。食事中も「もっと食べたいけど9を超えているかな?」と、ときどき評価することが肝心です。
ここまで読んで「なかなか面倒だな…」と思ったかもしれませんね。
初めのうちは1日に1~2回意識するだけでも結構です。少しずつ習慣づければ良いのです。コツは意志の力をできるだけ使わないこと。少々しくじっても、決して悲観したり自己嫌悪に陥ったりせず、とにかく気楽に助走期間をスタートさせてください。淡々と、あくまでも「とりあえず◯◯してみた」という程度のちょっとした意識変化を促します。この段階においては体重の数字はあまり気にする必要はありません。「ああしてみた」「こうしてみた」「こうなった」という満腹感に関する小さな実験や発見を繰り返していくだけで十分です。
イメージングを続けていくと、次第に、主観的な満腹感とVAS評価「10」が一致するようになってきます。すると「お米はこの茶碗に7分目ほどで十分」「おかずはだいたい握りこぶし1つ分サイズかな…」など、適正な食事量がおおよそつかめてきます。この段階の工夫としては、お米などはなるべく自分で茶碗でよそって、VAS基準を超えないように事前対策しましょう。
お弁当や外食の「一人前」が自分基準の「10」に当てはまるわけではない
前にお伝えした通り、VASはもともと“主観的な”評価基準です。ですから、自分の「10」と他人の「10」の食事量は違って当たり前。これがカロリーなどの絶対的な数値基準と異なる点です。VASは誰かと比べる必要はありません。
例えば、お弁当や外食の「一人前」が必ずしも自分基準の「10」に当てはまるわけではありません。よく考えれば当たり前ですが、世の中の基準はどんな体形の人にも一律で一人前に決まっているため適正な食事量が分からなくなってしまうのです。ですから、「一人前といったらこれくらい」という世間の常識をまず捨てることです。ある人にとってはどんぶり一杯分のお米が適量かもしれないし、別の人にとっては満腹感を得られる十分な分量は茶碗半分かもしれません。その場合は、外食の時など「お米は半分で」と店員さんにお願いすると良いですね。食品ロス防止の意識が高まってきたこのご時世、「残されるよりも…」と快く応じてもらえるはずです。
VASは一日を通して意識することに加え、食事中も「いただきます」から「ごちそうさま」までときどき自分のお腹と相談してVASを確認しましょう。
往々にして、体重過多の時期は「10~12」まで食べないと気が済まないもの…。というより、まるで「臭い物に蓋をする」ように「とっくに満腹を超えている」という事実に向き合わず、(お腹の)身体感覚を無視するような行動をしがちです。「残すともったいないから」と自分に言い訳して、お腹がはちきれるほど食べて初めて納得するように思考回路が歪んでしまっています。
それを、数字を意識することによって冷静に「8」くらいでも満足感を得られるように持っていきましょう。数値化するというと無味乾燥なイメージですが、むしろ落ち着いて食事をより満喫できます。「満腹じゃなくなったから食べる」から「空腹感を確認してから食べる」という習慣に変わってきます。この段階まできたら(久しぶりに?)体重計に乗ってみましょう。うまく進んでいれば、体重が少し減っているはずです。
文/藤原邦康
1970年静岡県浜松市生まれ。カリフォルニア州立大学卒業。米国公認ドクター・オブ・カイロプラクティック。一般社団法人日本整顎協会 理事。カイロプラクティック・オフィス オレア成城 院長。顎関節症に苦しむアゴ難民の救済活動に尽力。噛み合わせと瞬発力の観点からJリーガーや五輪選手などプロアスリートのコンディショニングを行なっている。格闘家や芸能人のクライアントも多数。著書に『自分で治す!顎関節症』(洋泉社)がある。