文/鈴木拓也

ホトトギス

「花鳥風月」という言葉があるように、日本文化と鳥との関わり合いは深い。

古今の詩歌・絵画の題材としておなじみの鳥たちを、日本史という括りで書籍にまとめたのは、野鳥写真家の大橋弘一さんだ。

書名は『鳥たちが彩る日本史 武将・文人と交わる8種類の鳥』(山と溪谷社https://www.yamakei.co.jp/products/2825230300.html)という。

本書で取り上げる鳥は、ホトトギス、ウソ、トラツグミ、ハト、ウグイス、セキレイ、キジ、そして「謎の鳥」。身近に存在する鳥を、歴史上の人たちはどうとらえたのか。鳥好きには格好の1冊に仕上がっている。

その一部を今回紹介しよう。

『万葉集』の鳥で最多登場のホトトギス

文芸の世界では、古くからポピュラーな鳥がホトトギスだ。

なにしろ、最古の歌集『万葉集』にも登場し、この鳥を詠んだ歌の数は153首とダントツに多い。そのうち64首が、花鳥を好んだ著名歌人、大伴家持によるもの。

大橋さんによれば、当時の歌人にホトトギスが好まれたのは、その姿でなく鳴き声であったという。「鳴き方の激しさ、鋭さ、響き渡る声質は特別なものと受け止められ」、橘との組み合わせでよく詠まれた。例えば、

我がやどの 花橘を 霍公鳥(ほととぎす) 来鳴かず地(つち)に 散らしてむとか(大伴家持)
歌意――我が家の橘の花を、ホトトギスは来て鳴きもせずに散らしてしまおうというのか
(本書18pより)

というふうに。

時代が下るとホトトギスは、中国の漢詩の影響を受け、「あの世とこの世を行き来する存在」「悲哀や悲嘆のイメージ」が色濃く現れるようになる。

例えば、戦国武将の柴田勝家は、賤ヶ岳の合戦で一敗地に塗れると、居城の北ノ庄城で、正室のお市の方とともに自刃して果てた。2人の辞世の句には、「ほととぎす」が見えるが、まさしく漢詩由来のイメージが反映されている。

天下泰平の徳川治世下になると、ホトトギスは再び朗らかな印象を取り戻す。松尾芭蕉の「橘や いつの野中の ほととぎす」のように俳句にもよく登場した。

明治時代に入っても、文芸界においてホトトギスは健在で、俳誌『ホトトギス』はその代表例。これは、正岡子規の名にちなんで刊行されたもので、子規はホトトギスの別名なのである。

昔はまったく違う鳴き声に聞こえていたウグイス

ウグイスといえば「ホー、ホケキョ」。

しかし、この鳴き声が定着したのは江戸時代に入ってからだという。

それまでは、「ウー、グイス」であり、そのままこの鳥の呼び名となっていた。

これが変化するきっかけを与えたのが、室町時代後期の僧、惟高妙安(いこうみょうあん)。妙安は、著書の中で「鶯が法華経とたかだかと鳴いた」と記しており、仏教の庶民への広まりとともに、「ホー、ホケキョ(法、法華経)」へと定着していったようだ。

ちなみに、それより前に浄土真宗中興の祖、蓮如上人が「うくひすは法ほききよと鳴くなり」と語ったという記録が残っている。日ごろ仏道に精進する高僧にとって、「ウー、グイス」よりも連想しやすかったのだろう。

室町・戦国の世を経て江戸時代の初期には、世間では「ホー、ホケキョ」と鳴くという認識になっていた。俳諧集『犬子集(えのこしゅう)』には、「鶯の ほう法花経や 朝づとめ」の句が見え、小林一茶も「今の世も、鳥はほけ経 鳴きにけり」と詠んでいる。その伝統は変わることなく、現代に受け継がれている。

馬琴が蝦夷鳥と詠んだ謎の鳥の正体は……

本書では、江戸時代後期の大作家、滝沢馬琴も取り上げられている。

意外にも彼は、大の愛鳥家であったという。父や祖父も鳥を飼っていたので、血筋かもしれないが、馬琴が鳥に目覚めたのは壮年期に入ってから。28年かけて書き上げることになる大作『南総里見八犬伝』に着手した頃だそうだ。

そのきっかけとして、大橋さんは、馬琴の激務ぶりを挙げる。

この頃の馬琴は、連日朝早く起きて机に向かい、三度の食事も文机から離れずに食べるような生活ぶりでした。夜は夜で、家族を休ませてから読書を始め、明け方まで読んでいることが多かったようです。
(本書217pより)

くわえて、家族関係で心を悩ませることも頻々で、心の拠り所として小鳥を買うことになった。最初は雄のウソ1羽であったが、凝り性なのだろう、どんどん増えて100羽近くになった。鳥の種類も多種多様で、とても飼いきれるものでなく、結局ほとんど売り払うことになる。

そして手元に残ったのは、カナリア、鳩、蝦夷鳥。大橋さんは、蝦夷鳥という現代にはない名の鳥の解明を試みている。馬琴は日記の中で、松前藩の「老公」から譲り受けたということでこの名で呼んでおり、「本国には絶えて無の鳥」だとしている。一説にはイソヒヨドリだと推定されているが、当時の鳥類図譜『禽鏡』に載る模写図とイソヒヨドリは似ているとは、とても言えない。大橋さんは、「この謎の鳥の正体は何だったのか、私には結論を出すことができませんでした」と述懐する。

蝦夷鳥のくだんの模写図は、本書にも載っている。あなたには、この鳥の正体はわかるだろうか?

【今日の教養を高める1冊】
『鳥たちが彩る日本史 武将・文人と交わる8種類の鳥』

大橋弘一著
定価1650円
山と溪谷社

文/鈴木拓也
老舗翻訳会社役員を退任後、フリーライターとなる。趣味は神社仏閣・秘境めぐりで、撮った写真をInstagram(https://www.instagram.com/happysuzuki/)に掲載している。

 

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