よく噛むことは健康に絶大な効果あり。「映え」グルメはダイエットの大敵！？
文／藤原邦康
整顎VASダイエットでは、低カロリー食品をたくさん摂取して無理に腹一杯にする「かさ増し」法はお勧めしません。大量の食べ物や汁物によって胃のスペースを強引に埋めることは食欲をごまかす行為ですから、たとえ一時的にはダイエット効果があっても長期的に見たらあまり意味がないですから避けた方が賢明です。
アゴを動かせば「よく食べた！」という実感が湧く
むしろ、たとえ少ない食事量でも、アゴと咀嚼筋をしっかり働かせて一口あたり30回以上噛み、満腹中枢を十分に働かせることをお勧めします。かさ増しで大食いすることが大きな食塊で胃を膨らませるイメージだとしたら、整顎VASダイエットは食べ物を細かく噛み砕いて「整理整頓」しながら胃に隙間なく収めていくイメージです。しっかり咀嚼して丁寧にお腹を埋めていけば、VAS（Visual Analog Scale）で満腹レベルの「10」まで届かない少量の食事でも、ほどほどの「８」くらいで満足できるようになります。いわゆる「腹八分目」ですね。
食事の最中の飲み物もほどほどにすると良いでしょう。早食いで喉を詰まらせ、慌てて飲み物で食べ物を流し込む、というような食べ方をしなくなるはずです。
よく噛む利点は、満腹感を得られることだけではなく、適度にアゴへの疲労感を得られることにもあります。アゴを動かせば「よく食べた！」という実感が湧くからです。
また、よく噛めば唾液の分泌が促され、栄養を十分に摂取できるメリットもあります。唾液に含まれる消化酵素アミラーゼはデンプンを分解します。たとえ少量のパンやお米でもしっかり味わって栄養摂取できるようになります。
さらに味覚障害の大きな原因であるドライマウス予防にも効果的です。一説によると、70代になると唾液はピーク時の３割ほどまで減少するといわれています。特にシニアの方ほどよく噛んで唾液腺を刺激すれば口を潤す効果があります。口腔内の粘膜保護や洗浄機能、殺菌効果のためにも、よく噛んで唾液の分泌を促進することは大事です。老若男女問わず、唾液中のカルシウムやリン酸は歯の再石灰化にも大きな役割を果たしており虫歯予防にも効果があります。よく咀嚼することは健康に絶大な効果があるということですね。歯医者さんがよく「口は健康の入口」とおっしゃるのも納得です。
視覚よりも嗅覚を働かせることがダイエットの近道
さて、人間は進化の過程で夜行性から昼行性になりました。かつては夜間に大型獣から襲われないように嗅覚をフルに働かせて危険を避けていました。一方、昼間に活動するようになると、匂いから危険を察知する必要性がなくなったため、ヒトの嗅覚は退化しました。代わりに発達したのが目です。明るい日中の危険回避をするためには匂いよりも視覚を活用するようになったのです。同時に、食べ物を探すときでも、匂いよりも見た目を頼りにするようになりました。霊長類やヒトでは視覚認知するための大脳皮質の第一次視覚野が発達し、形や色によって食べ物を認識できるようになりました。
このように、視覚は先史時代から長らく続いた飢餓時代には生き残りのために欠かせない大きな武器となりました。ところが、飽食の現代においては見た目に美味しい食べ物を追い求める本能や好奇心を過剰に刺激してしまいますから、ダイエットの大敵です。カラフルな「映え」グルメは視覚情報に訴求し食欲を刺激します。メディア発信やSNS投稿などによるグラフィックには中毒性がありますから注意が必要ですね。
ちなみに、犬などは腐っている食べ物は匂いで判別できますが、人間はたとえ痛んでいる食べ物も発色剤や照明などによって簡単にごまかされてしまいます。それほど、人間は鼻が悪いわけです。
これらの進化の過程を鑑みれば、視覚よりも嗅覚を働かせることがダイエットの近道であることが分かります。
文／藤原邦康
1970年静岡県浜松市生まれ。カリフォルニア州立大学卒業。米国公認ドクター・オブ・カイロプラクティック。一般社団法人日本整顎協会 理事。カイロプラクティック・オフィス オレア成城 院長。顎関節症に苦しむアゴ難民の救済活動に尽力。噛み合わせと瞬発力の観点からJリーガーや五輪選手などプロアスリートのコンディショニングを行なっている。格闘家や芸能人のクライアントも多数。著書に『自分で治す！顎関節症』（洋泉社）がある。
