「お薬手帳」を有効に使っていますか?|薬を使わない薬剤師 宇多川久美子のお薬講座【第17回】「お薬手帳」を自分のお薬メモに

みなさんも持っていると思います「お薬手帳」。薬局の薬剤師から「お薬手帳、お持ちですか?」と聞かれる、あの手帳です。導入されて20年近くになりますが、あまり有効に使われていないように感じます。そもそも「お薬手帳」の目的が正しく理解されていないのではないでしょうか? ここで改めて見直してみましょう。実は、かなり使いでのあるすぐれものなのです。

「お薬手帳」とは自分が服用する薬の記録であり、上手に使えば健康状態の記録にもなります。単に病院やクリニックで診療を受け、薬局でもらう処方薬の記録と思っている人が多いのですが、そんなことはありません。ドラッグストアで買った市販薬やサプリを記録しておいてもいいのです。薬局の薬剤師にとっても、それは参考になるはずのデータです。

実際には、薬局で薬といっしょに渡されるお薬手帳用のシールをペタッと貼っているだけのようですが、この使い方ではもったいない。シールには「薬の名前(商品名)」「服用量(使用量)」「何日分」「薬効」「医療機関」「薬局」などの情報が記されています。しかし薬局によっては、肝心な「薬効」が記されていないことがあります。何のために飲む薬なのか、わからない。薬品名を見て薬効がわかるのは薬剤師ぐらいでしょう。そういうシールをもらったときは、何のための薬か、余白に書いておくといいでしょう。

その薬の服用した結果や効果についてもメモしておくと、さらに有意義な手帳になります。

たとえば痛み止めのロキソプロフェン60mgを1日3回という用法で「2日目 頭痛が治まった」とか、花粉症の薬「フェキソフェナジン」1日2錠で「1週間飲んでいるが鼻水が止まらない」とか。同じく花粉症の薬「エピナスチン塩酸塩錠20mg」1日1錠で「3日目あたり鼻水が止まる」とか。また、服用し始めて「胃もたれ」や「頭痛」など、それまでになかった症状が出たら、副作用の可能性もあるのでメモをしておきましょう。こうしておけば薬と自分の相性もわかります。
食品や薬のアレルギー歴や副作用歴を書く欄もあります。あまり想像したくないことですが、もし不測の事態で意識を失ってしまったとき、この1冊があればどんなに参考になることか。

本来は医師が確認すべき手帳

「お薬手帳」はもともと、医師や薬剤師が患者の服用履歴を知るために、また、処方薬の重複(ポリファーマシー)を避け、無用な副作用を防ぐために生まれました。実際には、ほとんどの人が薬局で薬剤師に見せるだけです。薬剤師が見るのはもちろんですが、本来であれば処方箋を書く医師が、始めに確認すべきものだと思います。薬の処方に不安を感じている人は、診察時に医師に「お薬手帳」を確認してもらうといいでしょう。確認するのを面倒くさがる医師だったら、転院を検討してもいいのではないでしょうか。

クリニックごとに「お薬手帳」を作っていませんか?

ところで、「お薬手帳」を診察券と同じように思って複数のお薬手帳を持っている人がいます。Aクリニックに行くときはAクリニック専用の「お薬手帳」、B整形外科に行くときはB整形外科専用の「お薬手帳」と、通院先の数だけ「お薬手帳」を持っているのです。これでは「お薬手帳」が機能しません。単に「お薬手帳」の役割を勘違いしているケースが多いのだと思いますが、実は、そうでない場合もあります。

私が薬局で薬剤師をしていたときの話です。ある高齢の女性の「お薬手帳」を見ると、かかりつけのクリニックが1か所でした。年齢やご様子から推して1か所はめずらしいと思い、「他に行かれている病院はございませんか?」と尋ねると、「ない」とおっしゃいます。しかしその女性、本当は他のいくつもの病院に通院されていました。なぜ「ない」と答えるのかというと、遠慮していたのです、かかりつけの医師に。ほかの病院にも通っていることを、かかりつけの先生に知られたくないという気持ち。そうした医師への過剰な遠慮が、患者側に、特に高齢者には見受けられます。

多剤処方になりやすい高齢者にこそ、「お薬手帳」を本来の役割どおり、堂々と使っていただきたいと思います。そのためには医師や薬剤師がまず「お薬手帳」を確認することですが、限られた時間のなかでそれがむずかしいという事情も想像できます。ですから患者側が意識的にお薬手帳を活用していきましょう。血圧が気になる人は、余白に血圧を記してもいいのです。睡眠薬・睡眠導入剤を飲んでいる人は何時頃寝ついたか記録しておくのもいいでしょう。「お薬手帳」はあなた自身のものなので、どんどん書き込んでいいのです。ページが一杯になったら、薬局で新しい手帳をもらってください。

歴史をたどると、1995年の阪神大震災のとき、避難所に避難された人で、いつも飲んでいる薬の名前がわからず治療に手間取ったことが「お薬手帳」が生まれるきっかけになりました。2000年に厚労省が制度化しています。2011年の東日本大震災のときには、「お薬手帳」を持っていたおかげでスムーズに治療を受けられたという人の話を聞きました。

上手に使えば薬の重複を避けられ、副作用のリスクを低減でき、無用な薬代の節約にもなります。「お薬手帳」の使い方、見直してみませんか?

宇多川久美子(うだがわ・くみこ)

薬剤師、栄養学博士。一般社団法人国際感食協会理事長。健康オンラインサロン「豆の木クラブ」主宰。薬剤師として医療現場に立つ中で、薬の処方や飲み方に疑問を感じ、「薬を使わない薬剤師」をめざす。薬漬けだった自らも健康を取り戻した。現在は、栄養学や運動生理学の知識も生かし、感じて食べる「感食」、楽しく歩く「ハッピーウォーク」を中心に薬に頼らない健康法をイベントや講座で多くの人に伝えている。近著に『血圧を下げるのに降圧剤はいらない: 薬を使わない薬剤師が教える』(河出書房新社)。

構成・文/佐藤恵菜

 

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