文/藤原邦康
前回、たった1分で誰でも簡単にかみ合わせや蝶形骨のバランスを整えられるセルフケア「整顎ほおづえ」をご案内しました。整顎ほおづえには「右アゴと左頰」あるいは「左アゴと右頰」の2種類の組み合わせがあります。
正しい組み合わせで整顎ほおづえをすれば、蝶形骨から背骨につながる筋膜を通して体幹が安定し柔軟性が増して可動性が高まります。一方、組み合わせを間違えると、顎関節や後頭部を通じて全身のこわばりが強くなってしまいます。このリスクを避けるために、正しくかみ合わせ補正できたかどうか、ときどき確認しましょう。
立位で体幹の安定性を確認する2つの方法
立位で体幹の安定性を確認する方法を2つお教えしておきます。これらの方法は、整顎ほおづえの確認に有効なことはもちろん、本来の頭や体幹の重心バランスをチェックできます。
1つ目のやり方ですが、まず両足を肩幅ほどに開いて直立し、家族やパートナーから左右の肩を横方向や前後方向へ押してもらってください。蝶形骨バランスが整って頭位が定まっていれば、頭から背骨の適度な安定性やしなりによって重力に対して安定性を保つことができます。「立ち直り反射」という本能的な反応が起こるため、多少姿勢が崩れても外圧に抗って直立姿勢を保ち続けることができます。腰が座って動じないことに加えて、体全体でしなやかに衝撃を吸収できている「五重塔」のような理想的な状態です。逆に、間違ったパターンで整顎ほおづえをしてしまうと、いくら力んでいても、まるで「レンガ小屋」のように一見頑丈そうにみえても簡単にバランスを崩しやすくなります。
2つ目の方法は「その場足踏み」です。まず、両手を広げられる程度の十分なスペースを確保してください。初めの立ち位置で床にカラーテープや付箋などで印を付けておくと便利です。眼を閉じて、両腕を軽く振りその場で20歩ほど足踏みしてみましょう。転倒しないように家族やパートナーに補助と観察の役目をしてもらってから、足踏みを始めることをおすすめします。かみ合わせが悪く蝶形骨から体幹への筋膜コネクションの安定性が崩れていると、足踏みをくり返すうちに最初の立ち位置から徐々に移動したり回転したりしていきます。足踏みを終えて眼を開くと、思わぬ位置に移動していたりするものです。
移動パターンはいくつかの傾向に分かれます。食いしばりや頭部の前傾が強いと、少しずつ前進していきます。体軸が崩れてねじれが生じていると回転しやすくなります。また左右の肩の高さが違うなど、頭や体に傾きを生じていれば横移動しやすくなります。人によりますが大抵の場合、これら前後バランスや軸、傾斜が組み合わさった悪い姿勢になっているため、前進しつつ回転して横移動していきます。この状態は、眼球から入力された情報と三半規管などから入力された姿勢の情報にズレが生じていることを示しています。いわば、脳が間違った姿勢を補正して覚えているわけです。
顎関節が体のバランスの乱れの原因かどうかをチェック
次に、体のバランスの乱れが顎関節に由来しているのかどうかをチェックしてみましょう。これら2種類の確認方法をポカン口で行なってみてください。体幹が崩れにくくなったり、その場足踏みでポジションを保てるようになったりするようでしたら、整顎ほおづえが有効です。(一方、ポカン口で足踏みの変位が改善しない場合は、問題箇所が背骨や骨盤、下肢など、アゴ以外の部位にあることを示唆しています。)
正しく整顎ほおづえを済ませると、体幹が安定しその場足踏みをしても立ち位置をキープしやすくなります。理由は、蝶形骨から背骨や下肢へつながる筋膜がしなやかに波打って、全身が連動できるようになるからです。ただし、蝶形骨のバランスが整っていても、骨盤や背骨のゆがみがあれば、土台から重心が崩れていく傾向が生まれます。この場合は、ヨガなどで姿勢と柔軟性を整えると良いでしょう。このチェックは1週間に一度ほどの頻度で行えば十分です。
日々のチェック方法としては、柔軟性とリラックス度合いの確認で結構です。体前屈や開脚の可動域を確認すると整顎ほおづえの前と後とで違いを実感できます。正しく整顎ほおづえができている場合、首や肩を動かして感触を確かめるとコリ感がなくなって軽く動くように感じるはずです。体がリラックスし副交感神経が働いてきますから心身が安らぎます。これは、中脳や延髄、脊髄を通る副交感神経が通る背骨、そして心膜や横隔膜が蝶形骨からの筋膜でつながっているためです。
文/藤原邦康
1970年静岡県浜松市生まれ。カリフォルニア州立大学卒業。米国公認ドクター・オブ・カイロプラクティック。一般社団法人日本整顎協会 理事。カイロプラクティック・オフィス オレア成城 院長。顎関節症に苦しむアゴ難民の救済活動に尽力。噛み合わせと瞬発力の観点からJリーガーや五輪選手などプロアスリートのコンディショニングを行なっている。格闘家や芸能人のクライアントも多数。著書に『自分で治す!顎関節症』(洋泉社)がある。