写真・文/山本益博
「てんぷらは魚の脱水作業」という名言を吐いた「みかわ是山居」主人早乙女哲哉さんのてんぷらに惚れて、40年近く茅場町にあった「みかわ」の時代から現在の江東区福住の「みかわ是山居」へ通い続けています。
「脱水作業」の典型が「あなご」のてんぷらではないでしょうか。通年あるてん種ですが、梅雨が終わったあたりからの「あなご」はとりわけ美味です。早乙女哲哉さんの揚げる「あなご」は、どのてんぷら職人よりも、しっかりと揚げます。あなごが焦げてしまう寸前に油から引き揚げると言っても過言ではありません。
早乙女さん曰く、「てんぷらは、魚の水分を衣を介して調理する料理だから、正確に言えば、魚の水分が油の力ではじき出されるとき、100度までは『蒸す』、それを超えた時点で『焼く』作業が始まります。つまり、てんぷらは『蒸す』と『焼く』を同時に行う料理なんです」。
こうして揚げられた1本揚げの「あなご」のてんぷらは、客の前で金箸で胴と尻尾に切り分けられます。切り分けられた瞬間、最後の水分が蒸気となって立ち昇り、抜けてゆきます。脂ののった胴は天つゆで、身が緻密な尻尾は塩でいただくと、持ち味が最大限に生かされて、この上ない美味しさです。
「あおりいか」も夏を代表するいかです。春からの「すみいか」が夏の「あおりいか」に替わると、半生で揚げられた「あおりいか」のねっとりとした身から甘みがにじみ出てきます。
「車海老」も「あなご」同様通年のてん種、というよりてんぷらを代表するてん種ですが、てんぷらで使う車海老は「才巻海老」と呼ばれる小ぶりの海老を使います。これだと、頭も尻尾も美味しくいただけます。