取材・文/ふじのあやこ

家族との関係を娘目線で振り返る本連載。幼少期、思春期を経て、親に感じていた気持ちを探ります。~その1~はコチラ

今回お話を伺ったのは、小学生と幼稚園に通う2児の母親であり、都内のデザイン事務所で働いている恵子さん(仮名・39歳)。奈良県の出身で、両親との3歳上に姉がいる4人家族。一度はバラバラになりそうだった家族は恵子さんの高校受験騒動で纏まりを見せます。進学した商業高校では簿記や情報処理を学び、卒業の時にはほとんどの生徒が就職を選んでいました。

「商業高校だったので、当然と言えば当然なのかもしれませんが、まだ18歳。まったく就職するイメージが湧かなくて……。でも、大学にいける頭は持っていないから、専門学校に進学しようと決めたんです。きっと父親は反対すると思って、事前にめぼしいところのパンフレットを取り寄せたり、説明会に参加したこともあります。そして何を言われても言い返せるようにスタンバイしてから、父親にお願いしに行きました」

専門学校進学も一人暮らしもあっさり了承。やりたいことを認め続けてくれた父

恵子さんはマスコミ関係を学べる専門学校に決め、両親に話し合いの機会を作ってもらいます。すると、父親の答えはあっさりOK。拍子抜けするほど、話し合いは短時間で終わったと言います。

「『本当にやりたいことなら問題ない』とあっさりと認めてくれたんですよね。そこからはどんな学校なんだとパンフレットを楽しそうに見るんですよ。高校は父親が希望した商業高校だったので絶対に就職しないといけないと思っていたのに。それに、なんとなく父親は嬉しそうに見えたんですよね」

進学した専門学校は大阪にあり、そこでは文章を書くことからカメラの使い方までを2年かけて学びます。しかし就職活動はうまくいかず……。学校に求人票を出していた先物取引を行っている証券会社に就職します。

「学校の求人には希望していた出版社関係は全然ありませんでした。個人で求人誌を見つけて応募しても全滅。さすがにフリーターはまずいと、就職しないといけないと思い、学校に求人票を出していた会社を手当たり次第に受験して、そのうちの1つに就職しました。そして就職を機に家を出て一人暮らしを始めました。父親は就職が決まった時は喜んでくれましたけど、嬉しそうじゃなかったです。一人暮らしも会社が用意してくれたマンションだったので特に反対もなく。母親のほうは私を心配してくれて、一人暮らしを始めてからは毎週必ず電話するような関係になっていきましたね」

上京を決めた時にも背中を押してくれた父。その行動には、自営業を継いだ時に決めたある決意があった

仕事は営業職だったこともあり、ノルマをこなすことができずに1年ほどで退職。そのことをどうしても両親に言えなかった恵子さんはマンションを追い出されて後は大阪で当時付き合っていた男性の家で同棲を始めます。そしてアルバイトでDTPやデザインなどを行う会社で働き出し、そこで新しい目標ができたと言います。

「そこで一からデザインソフトの使い方やデザインを教わり、楽しかったんです。本当は編集者になりたかったけど、デザイナーとしてなら雑誌作りに関わっていけるかもって思いました。とにかくそこで仕事を頑張り、アルバイトから契約社員になったことで両親に転職を報告。その報告をした時も父親から何かを言われた記憶はありません。母親は事後報告になったことを少し怒っていました。同棲のことはもちろん2人に内緒のままですけどね」

2年ほど働いた時に同棲していた彼が東京へ転勤に。彼が東京に行った後も同じマンションで生活しながら遠距離恋愛をしていたそう。しかし、徐々に彼のいる東京に行きたいと思うようになり、今度はちゃんと転職先を決めて、上京を決意します。その報告をしに実家に行った時にも父親は了承。そんな姿を疑問に思った恵子さんは父親にある質問をしたと言います。

「上京を伝えた時も母親はアタフタしていましたが、父親は『頑張って来い』と送り出してくれたんです。父親に私の行動について反対されたことは一度もありませんでした。高校だって商業高校なのに専門学校に行かせてくれた。なんとなくなんで反対しないのか聞いてみたんです。そしたら、父親は『自分は父親の仕事を継ぐのではなく、したいことがあった』と教えてくれました。そして『何があっても子供には絶対にしたいことをやらせてあげよう』と決めていたそうなんです。やりたくなかった仕事でも、そんな素振りを一切見せずに私たち子供をちゃんと育ててくれました。何があっても背中を押し続けてくれた強さを今は誇りに思いますね」

恵子さんはその後東京で先に転勤していた彼と29歳で結婚。2児の子供にも恵まれた今もフルタイムでデザインの仕事を続けています。フルタイム勤務を続ける理由を聞くと、「今は旦那が自営業になって、自宅で仕事をしているんです。だから気にせずに家を空けることができています。父が背中を押してくれた仕事ですから。ずっと続けていくつもりです」と恵子さんは笑顔で語ります。

取材・文/ふじのあやこ
情報誌・スポーツ誌の出版社2社を経て、フリーのライター・編集者・ウェブデザイナーとなる。趣味はスポーツ観戦で、野球、アイスホッケー観戦などで全国を行脚している。

 

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