文/編集部
黒澤明、溝口健二とならぶ、世界に誇る日本映画の巨匠・小津安二郎(おづ・やすじろう、1903~1963)。「オヅヤス」の愛称で語られることも多い小津は、昭和という時代のなかで、市井の家族を繊細に描いた数々の名作を遺した。
その作品は、今もなお国内外で高い評価と支持を得ている。
そんな小津安二郎の代表作たる7作品が、最新のデジタル技術で鮮烈に修復され、東京・新宿の映画館で連続上映される(2018年6月16日~7月7日)。『麦秋』『東京物語』『お茶漬けの味』など、いずれも日本映画史に燦然と輝く名作ぞろい。これらを未だ見たことのないほどの鮮明な映像で大スクリーンで楽しめるという、オールド映画ファンにとっては垂涎の機会だ。
今回上映される作品は、以下の7作品。いずれも小津安を語るには欠かせない名作揃いだ。
① 東京物語
(1953年/モノクロ/ 135分/スタンダード/松竹)
脚本:野田高梧、小津安二郎
撮影:厚田雄春 美術:濱田辰雄 音楽:齋藤高順
出演:笠智衆、東山千榮子、原節子、杉村春子、山村聰、
三宅邦子、香川京子
幾度もリメイクされている、映画史上燦然と輝く小津安二郎の最高傑作。尾道に暮らす老夫婦(笠・東山)が子供たちに会う為東京に出て来るが、長男・幸一(山村)や長女・志げ(杉村)らは日々の生活に追われ両親にかまってやれない。そんな寂しい思いをする2人を慰めたのは、戦死した次男の嫁・紀子(原)だったが……。
② 晩春
(1949年/モノクロ/ 108分/スタンダード/松竹)
原作:廣津和郎(「父と娘」より) 脚本:野田高梧、小津安二郎
撮影:厚田雄春 美術:濱田辰雄 音楽:伊藤宜二
出演:笠智衆、原節子、月岡夢路、杉村春子、青木放屁、
宇佐美淳、三宅邦子、三島雅夫
父と娘の深い愛と絆を描く、原節子記念すべき小津作品出演第1作。大学教授の周吉(笠)は娘・紀子(原)と2人暮らし。紀子は妻を亡くした父に尽くし嫁に行けずにいた。そんな中、紀子に縁談が持ち上がり、周吉は自分も後妻を取ると紀子に告げる……。
③ 早春
(1956年/モノクロ/ 144分/スタンダード/松竹)
脚本:野田高梧、小津安二郎
撮影:厚田雄春 美術:濱田辰雄 音楽:齋藤高順
出演:淡島千景、池部良、高橋貞二、岸惠子、笠智衆、山村聰、
杉村春子、田浦正巳
倦怠期にある若い夫婦の危機と再生をシリアスに描いた人間ドラマ。サラリーマンの正二(池部)と妻・昌子(淡島)は結婚8年の共働きの夫婦。子供を失って以来、関係は冷え切っている。そんな中、正二は毎朝同じ通勤電車に乗り合わせる内に親しくなったグループのひとり・千代(岸)と成り行きで一夜を共にしてしまい……。
④ 麦秋
(1951年/モノクロ/ 124分/スタンダード/松竹)
脚本:野田高梧、小津安二郎
撮影:厚田雄春 美術:濱田辰雄 音楽:伊藤宜二
出演:原節子、笠智衆、淡島千景、佐野周二、三宅邦子、
菅井一郎、東山千榮子、杉村春子
戦争の傷を抱え生きる家族の崩壊と再生、人間の無常を描く珠玉の名作。北鎌倉に大家族で暮らす間宮家の長女・紀子(原)は会社の上司から縁談を持ち込まれる。しかし紀子は戦死した兄の親友で、妻を亡くした子持ちの謙吉との結婚を決めてしまう……。
⑤ 東京暮色
(1957年/モノクロ/ 140分/スタンダード/松竹)
脚本:野田高梧、小津安二郎
撮影:厚田雄春 美術:濱田辰雄 音楽:齋藤高順
出演:原節子、有馬稲子、笠智衆、山田五十鈴、高橋貞二、
田浦正巳、杉村春子、山村聰
主人公に“光”が与えられない― 衝撃の辛口ホームドラマ。銀行員の周吉(笠)は、妻と自分の部下が駆け落ちして以来、男手ひとつで子供たちを育てて来たが、長女・孝子(原)は夫とうまく行っておらず、幼い娘を連れて実家に戻って来る。一方、短大を出たばかりの次女・明子(有馬)は男に騙され妊娠してしまう……。
⑥ お茶漬の味
(1952年/モノクロ/ 115分/スタンダード/松竹)
脚本:野田高梧、小津安二郎
撮影:厚田雄春 美術:濱田辰雄 音楽:齋藤一郎
出演:佐分利信、木暮実千代、鶴田浩二、笠智衆、
淡島千景、津島恵子、三宅邦子、柳永二郎
身分や価値観の異なる夫婦のすれ違いと和解を描く感動作。田舎出身の茂吉(佐分利)は真面目で質素な生活を好む男。一方、上流階級出身の妻・妙子(木暮)はそんな夫の野暮さが気に入らず、友人のアヤ(淡島)や長兄の娘・節子(津島)らと遊びに出かけることで鬱憤を晴らしていたが、茂吉が海外出張に行くことになり……。
⑦ 浮草
(1959年/カラー/ 119分/スタンダード/大映)
脚本:野田高梧、小津安二郎
撮影:宮川一夫 美術:下河原友雄 音楽:齋藤高順
出演:中村鴈治郎、京マチ子、若尾文子、川口浩、杉村春子、
野添ひとみ、笠智衆
人の心の美しさを溢れる詩情で謳いあげ、胸打つ哀愁と感動で全編を貫く文芸巨篇。志摩半島の小さな港町に旅役者の一座の乗った船が着く。そこには団長・駒十郎(中村)が飯屋のお芳(杉村)との間にもうけた息子・清(川口)がいる。駒十郎の連れであるすみ子(京)は彼らの関係を疑い、座員の加代(若尾)に清を誘惑させるようとするが……。
以上7作品が、「4K」デジタル修復されて映画館のスクリーンに蘇る。
父と娘、大家族、夫と妻、親と子、夫婦と夫の愛人、父娘と母娘、そして旅一座……。これらに通底するのは、小津安二郎が追い求めた普遍的な「家族」の物語である。この機会に全作を一気に見通して、その作品世界にどっぷり浸るのも面白そうではないか。
【開催概要】
『小津4K-巨匠が見つめた7つの家族-』
公開日&劇場
6月16日(土)~6月22日(金) 新宿ピカデリー、
6月23日(土)~7月7日(土) 角川シネマ新宿
当日料金:一般1,600円/シニア(60歳以上)1,100円
※各劇場窓口で前売り券も販売中
http://cinemakadokawa.jp/ozu4k-115/
<トークショー>
小津作品を彩った2大女優が登壇します
ゲスト:香川京子(女優)6月23日(土)10:00『東京物語』上映後
ゲスト:有馬稲子(女優)6月24日(日)10:00『東京暮色』上映後
文/編集部