取材・文/末原美裕

「お伊勢七たび、熊野へ三たび、愛宕さんへは月詣り」

江戸時代、庶民の間でそううたわれるほど、愛宕神社は親しまれてきました。日本の原風景のような嵯峨野の地を歩いて行くと、凛とした愛宕神社の一の鳥居が見えてきます。そのたもとに「平野屋」は店を構えています。

創業400年以上の歴史があり、京の料亭へ卸す鮎問屋を営む傍ら、茶屋として多くの参詣者を魅了してきました。歴史が示す通り、食材の本来の味と食感を引き出す、洗練された美味の数々をたっぷりいただけます。

新緑の輝きに溢れる愛宕山を背景に、若葉の香りが感じられるような柔らかな風のもとで料理が提供されます。

お料理は、京都の山、川、野の幸を季節にあわせてたっぷり味わえます。筍が瑞々しい春のお料理(昼・5000円、税・サービス料別)を早速いただきましょう。

先付には、地元嵯峨で朝採りされた山菜をいただきました。旬のふきやわらびは、春の野のうまみがたっぷりです。つくしのちょっとした苦味に春を感じ、体を起こしてくれるようです。

次に出てくるのは、湯葉どうふと若竹のお刺身。若竹は朝彫りなので、清々しい食感が口の中を広がります。湯葉どうふも柔らかな甘みがあり、優しい気分にしてくれます。

ここまでたっぷりいただけるお店はないんじゃないかというくらいボリュームのある湯豆腐がいただけます。お豆腐は川端康成氏や司馬遼太郎氏の作品でも紹介された、嵯峨豆腐 森嘉さんより仕入れられているそうで、柔らかなのに腰が強い、でもなめらかさもあるという口触りのよさに身も心も翻弄されます。

続いて筍の木の芽和えです。京都の白味噌の甘みと筍の食感のバランスが絶妙で、箸がどんどん進みます。

そしてお待ちかねの鮎の甘露煮です。「鮎といえば平野屋」と呼び声の高い、鮎問屋で選び抜かれた鮎は肉厚で美味です。保津峡谷に近いことから、保津川水系の清流でとれた鮎だそうです。

6月の若鮎から、もっとも脂ののる8月、9月はお造りなどもいただけるそうですよ。夏のお料理も見逃せませんね。

締めくくりは、筍の炊き合わせと筍ご飯です。旬の筍本来の味を様々な調理法で引き出し、魅せてくださるので、若々しい春の口福感がいっぱいに広がります。

デザートは、愛宕山名物の「志んこ」です。上品な甘味をたたえる米粉でできたお団子は、かつて茶屋であったことを偲ばせるどこか懐かしい味わいです。

京都の“今だけ”しか味わない旬を心行くまで堪能できるお店です。

■平野屋
営業時間:11時30分〜19時(L.O.)
住所:京都市右京区嵯峨鳥居本仙翁町16
電話:075-861-0359
アクセス:JR嵯峨野線 嵯峨嵐山駅より車で約10分、京福嵐山線 嵐山駅より車で約10分、阪急嵐山線 嵐山駅より車で約10分、京都バス 清滝行き「62」・「72」系統でいずれも鳥居本バス停下車徒歩5分
http://ayuchaya-hiranoya.com
JR東海「そうだ 京都、行こう。」青もみじ御朱印めぐり:
http://souda-kyoto.jp/travelplan/early-summer_sp/index.html

取材・文/末原美裕

 

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