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今井正監督『青い山脈』|銀幕の大女優・原節子にウットリため息【面白すぎる日本映画 第14回】

文・絵/牧野良幸

戦前から女優として活躍していた原節子(はら・せつこ、1920~2015)は、戦後、小津映画を始め数々の作品に出演し、日本映画の黄金時代を支えた。しかしご存じのとおり1963年を境に映画界から引退。以後その姿を大衆に見せることなく、2015年暮に訃報が届くまで“伝説の女優”としての人生をまっとうした。

その原節子の訃報があった翌年だったか、“懐かしの日本映画”という催しがおこなわれ、プログラムに『青い山脈』(正編と続編)が含まれていたので見に行った。内容が内容のせいか、還暦が近い僕でさえ、おそらく観客のなかでは最年少者であっただろう。

やがて照明が落とされ、スクリーンに映画が映しだされた。

場所は地方の港町。女学校の新子(杉葉子)が高校生の六助(池辺良)と出会うところから映画は始まる。それを、男と女が一緒にいれば「接吻している」と大騒ぎするような女生徒に目撃されたところから、あらぬ噂が広まった。クラスメートの浅子(山本和子)らは新子を「淫ら」ときめつけ、ニセのラブレターを書いてからかおうとする。それが学校側に発覚し事件は大きくなっていった。

ここで毅然と立ち上がり、新子をかばうのが、東京から赴任した島崎先生(原節子)である。島崎先生は健康的な男女交際を認める自由な思想の持ち主。戦後の民主主義を体現しているような存在だ。

この島崎先生が始めてあらわれるシーンで、原節子がいまだ“銀幕の大スター”であることを思い知らされた。晴れわたった学校の運動場で女子生徒がバスケットボールの授業をしている。そこに審判をつとめる島崎先生がパッと映るや、会場中から「はぁー!」とも「おぉー!」ともつかぬため息が沸き起こったのである。

スクリーンに映っただけで会場から何百のため息を誘うのだから、いかに原節子が大女優であるか分かるというものである。男女を問わず、観客が憧れの眼で見ているのが暗闇でも伝わる。こればかりは家のホームシアターで観ていてはわからない感触だ。

しかし原節子にばかりウットリできないのが『青い山脈』である。原節子には僕のような小僧でも本当に見とれてしまうが(日本人なのにハリウッド女優みたいだ)、島崎先生が封建的な教師や、偏見の目で見る生徒たちに屈服されはしないかとヤキモキしてしまう。映画から70年近くたった今日も「いじめ」の状況は変わらない、むしろ陰湿化しているだけに、とても平静な気分で見ていられないのだ。

しかし島崎先生には新しい考えに共感する仲間がいた。沼田先生(龍崎一郎)、芸者の梅太郎(木暮実千代)とその娘の和子(若山セツ子)は本当に心強い存在だ。こうして最後は島崎先生の新しい考えが受け入れられ、生徒たちも和解してハッピー・エンドとなる。

最後は再びあの主題歌が流れ、島崎先生たちが自転車で疾走する。それは青春賛歌のようでもあり、戦後民主主義への賛歌のようでもある。ヒューマニズム系の今井正監督らしいエンディングだ。

ちょうどNHK-BSシネマで、12月19日に『青い山脈』を放送される。ぜひご覧になってはいかがだろうか。僕のように何百というため息に囲まれるのもいいが、ひとり“銀幕の大スター”原節子にため息を付くのも悪くないと思う。

※なおNHK-BSでは18日〜21日に「青い山脈」以外にも原節子の映画が放送されます。
http://www.nhk.or.jp/bscinema/calendar.html?now

『青い山脈』
■製作年:1949年
■製作・配給:東宝
■白黒/91分
■キャスト/原節子、池部良、杉葉子、木暮実千代、若山セツ子、伊豆肇、龍崎一郎 ほか
■スタッフ/監督: 今井正、原作:石坂洋次郎、脚本:井手俊郎、音楽:服部良一

文・絵/牧野良幸
1958年 愛知県岡崎市生まれ。イラストレーター、版画家。音楽や映画のイラストエッセイも手がける。著書に『僕の音盤青春記』『オーディオ小僧のいい音おかわり』(音楽出版社)などがある。ホームページ http://mackie.jp

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