取材・文/池田充枝
ニューズウィーク誌の「世界が尊敬する日本人100人」(2005年)にも選ばれた篠田桃紅(しのだ・とうこ)さんは、105歳となる現在もなお世界の第一線で活躍している美術家です。
1913年、中国・大連に生まれた桃紅さんは、5歳で父の手ほどきを受けた書を、独学で極めます。その後、文字の形にとらわれず墨で描く“水墨抽象画”と呼ばれる独自のスタイルを確立しました。
1956年に単身渡米、ニューヨークを拠点にボストン、シカゴ、パリ他で個展を開催。1958年に帰国後は、壁画や壁書、レリーフといった建築に関わる仕事や、東京・芝にある増上寺大本堂の襖絵などの大作、またリトグラフや装丁、題字、随筆など多岐にわたる分野の仕事を手がけてきました。
日本の古典をベースに、昇華された繊細で優美な表現、余分なものを削ぎ落とし、一瞬の心のかたちを追求する姿勢は、見る人々を魅了し続けています。
そんな105歳の現役美術家、篠田桃紅さんの画業の全貌をご覧いただける展覧会《篠田桃紅 とどめ得ぬもの 墨のいろ 心のかたち》展が、サントミューゼ上田市立美術館にて開催されています(~2018年7月22日まで)。
本展では、篠田桃紅さんが書道という枠を離れて、独自の抽象表現を確立してから現在にいたるまでの変遷を、約90点の作品と資料を通して辿ります。
本展の見どころを、サントミューゼ上田市立美術館の広報、大西葵さんにうかがいました。
「篠田桃紅は、今もなお新しい表現を追求し続ける現役の美術家です。その作品や凛とした生き方は、世代や国を超えて注目されています。今回の展覧会では、初期から近年までの代表作品を4章立てでご覧いただきます。
第1章は「文字を超えて」。ここでは、書家として活動を始めた頃の、書道という枠の中で発展した初期の作品が並びます。
第2章「渡米-新しいかたち」では、文字を離れ、墨の色や線を追及する独自の抽象表現を確立したニューヨークでの挑戦、また帰国後の墨を使った独自の表現、建築に関わる仕事を始めた頃の作品群をお楽しみください。
第3章は「昇華する抽象」。桃紅の作品には、日本の伝統や文化といった普遍的な美のかたちや旋律が息づいています。この頃から、情感的な抽象からよりシンプルに昇華された抽象へと作風を変遷させていきます。
そして第4章は「永劫と響きあう一瞬のかたち」。独創性を確立しながらも、常に新たな造形を模索し続ける桃紅は、2000年に入ると、墨色は一層深まり、線はさらに鋭く、ほどよい緊張感に包まれていきます。
本展は、2018年に105歳を迎えた桃紅の画業100年を振り返る大規模展となっております。世紀を超えて真の美と追求し続ける桃紅のあゆみを辿りながら、彼女が確立した独特の墨の美的世界、伝統と革新を追求しながらも普遍であり続けるその幽玄なる世界を、会場にてご堪能いただければと思います」
105歳にして「凛とした」という言葉がぴったりの美術家、篠田桃紅さん。その画業の真髄に触れることができる展覧会です。ぜひ足をお運びください。
【開催要項】
『篠田桃紅 とどめ得ぬもの 墨のいろ 心のかたち』
会期:2018年4月21日(土)~7月22日(日)
会場:サントミューゼ上田市立美術館
長野県上田市天神3-15-15
電話番号:0268・27・2300
開館時間:9時から17時まで(入館は16時30分まで)
休館日:火曜
美術館サイト:https://www.santomyuse.com/
展覧会特設サイト:http://tsb.jp/shinodatoko/
取材・文/池田充枝