文/鳥居美砂
沖縄料理店の献立に「ゴーヤーチャンプルー」と並んで「ソーミン(ソーメン)チャンプルー」と書かれていることがあります。「チャンプルー」はインドネシア語の「チャンプール」(混ぜるの意味)が語源といわれ、季節の野菜と豆腐を一緒に炒める料理です。豆腐が入っていないのに、「チャンプルー」とはこれいかに?
素麺を炒めた料理は、「ソーミンタシヤー」といいます。「タシヤー」は主に野菜の単品の食材をサッと炒める料理法。ごはんを炒めると「タシヤーメー」と呼びます。
ちなみに、お麩の炒め物も「フーチャンプルー」と呼ばれることが多いようですが、こちらは正式には「フーイリチー」です。だし汁を入れ、その旨味を吸わせるように炒めていく料理法です。多分、観光客向けの店などではわかりやすいように、炒め物=チャンプルーになったのではないでしょうか。
このように、ひと口に炒め物といっても、使う食材や調理法の違いによって料理名が変わってきます。それが、伝統的な沖縄の料理、つまり琉球料理の奥深さといえるでしょう。
また、「ソーミンタシヤー」は台風の日に、保存食でもある素麺をちゃっちゃと炒めて作る料理、というまことしやかな話を聞いたことがあります。暴風と大雨の中、庭に植えてある葱を引き抜いて作るとのことでした。なんだか“沖縄あるある”みたいだなぁと思って聞いていましたが、どうも都市伝説の域を出ないようです。
ともあれ、少ない食材で手早く作れる料理には間違いありません。ただし、シンプルゆえになかなか味が決まらず、美味しく作るのが難しいのです。
それならと、この連載の料理指南役である松本料理学院学院長、松本嘉代子さんに、ソーミンをつかった沖縄料理「ソーミンタシヤー」のコツを伺いました。
「コツは素麺の茹で加減に尽きますね。茹で過ぎた素麺を炒めるとプットゥルー状態(とろとろの状態)になり、『ソーミンプットゥルー』という別な料理になってしまいます。お嫁さんがお姑さんから『今日はタシヤーなの、プットゥルーなの?』と尋ねられるという笑い話もあるぐらいです。ただお年寄りは、やわらかくて喉ごしのいい『プットルゥー』を好む方もいますが。
食感よく仕上げるには茹でて水気を切った素麺に、少量のサラダ油と塩(1束あたり小さじ1/4程度)をまぶしておき、その後で炒めます」
素麺は1束でも2束でも、ご自分の食べる分量で。味付けは塩のみ、具は青葱(または、わけぎ)だけです。作り慣れた名人が作ると、風味豊かなひと皿ができ上がりますが、これから挑戦する人は何度か作って、自分の舌に合う茹で加減、炒め加減を見つけるしかありません。
【ソーミンタシヤーの作り方】
(1)素麺はたっぷりの熱湯にほぐして入れる。再び沸騰してきたら間もなくザルにとって一気に水にさらし、水気を切って、塩とサラダ油をまぶしておく。
(2)鍋にサラダ油(1束あたり大さじ1/2程度)をよく熱し、(1)を炒め、全体によく混ぜたら、仕上げ際に小口切りにした青葱を散らして完成。
同じ素麺を使った料理でも、おもてなし料理となると随分様子が変わってきます。
「『如意素麺(ルーイゾーミン)』という料理は、茹でた素麺を屏風(びょうぶ)たたみにして、その上に長さを揃えた豚ロース、干し椎茸、大根、からし菜、錦糸卵をのせた上品なひと椀です。素麺を茹でるときは端を縛り、形が崩れないようにします」(松本先生)
豚肉、椎茸、大根はだし汁、醤油、みりんの煮汁で煮含め、からし菜は変色を防ぐために最後に入れ、下味をつけておきます。薄焼き卵もほかの具材と同じく、5センチの長さに揃えておきます。
別の鍋にかけ汁(鰹だしと豚だしの合わせだしに塩、醤油で味付け)を煮立て、その中に束ねたままの素麺をくぐらせて椀に折りたたんで入れ、結わえた根元を切ります。
素麺の上に5種類の具を彩りよくきれいに並べ、熱いかけ汁を静かに注ぎ入れます。
「如意」とは、僧侶が読経のときに持つ仏具のことです。意のままに、という意味もあり、吉兆の印ともされます。そのため。「如意素麺」はおめでたい席の汁物としても使われます。
簡単に作れる「ソーミンタシヤー」と、具の下準備に丁寧さが求められる「ルーイゾーミン」。同じ素麺を使っても、見た目も味わいも異なるふたつの料理。ここにも琉球料理の奥深さを感じます。
文/鳥居美砂
ライター・消費生活アドバイザー。『サライ』記者として25年以上、取材にあたる。12年余りにわたって東京〜沖縄を往来する暮らしを続け、2015年末本拠地を沖縄・那覇に移す。沖縄に関する著書に『沖縄時間 美ら島暮らしは、でーじ上等』(PHP研究所)がある。