パリの東北東約150kmに位置するランス市は、シャンパーニュ地方の中心都市です。シャンパンの唯一の醸造地として知られていますが、歴代のフランス王が戴冠式を行った世界遺産のノートル=ダム大聖堂がある由緒ある街です。
ランスにあるランス美術館は、フランス革命勃発直後の1795年に発足し、1800年から一般公開されました。16世紀の初期ルネサンス絵画から21世紀の現代アートまで幅広いコレクションを有し、フランス絵画の宝庫として世界に知られていますが、その多くが個人コレクターの寄贈によって形成されています。
なかでも名高いシャンパンメゾンであるポメリー社の経営者アンリ・ヴァニエによる1907年の寄贈は、19世紀美術を中心に582点もの作品が含まれ、同美術館の充実と発展に重要な役割を果たしました。
ランス市で洗礼を受けたレオナール・フジタ(藤田嗣治)の作品も遺族より寄贈されており、同館はヨーロッパで最も多くフジタ作品を所蔵する美術館となっています。
そんなランス美術館のコレクションから優品を選りすぐって紹介する展覧会「フランス絵画の宝庫 ランス美術館展」が、東京・西新宿の東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館で開かれています。
本展はランス美術館の所蔵作品から、17世紀のバロックに始まり、18世紀のロココ、19世紀のロマン派、新古典派、印象派、ポスト印象派まで約70点で構成するフランス絵画の歴史を辿る展覧会です。併せて、ランス市に縁の深いレオノール・フジタの作品も紹介します。
本展の見どころを、東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館の主任学芸員、小林晶子さんにうかがいました。
「本展の見どころのひとつは、ランス美術館が所蔵するレオナール・フジタ(藤田嗣治)の作品をまとめてご覧いただける点です。なかでもランス美術館の所蔵となってから初めて館外に貸出されるフジタの素描群は、とくに注目すべき作品群です。
晩年のフジタはランス市内に礼拝堂(平和の聖母礼拝堂、通称「フジタ礼拝堂」)を建立しますが、これらの素描はこの礼拝堂を飾るフレスコ画やステンドグラスのための下絵で、完成作品とほぼ同じ大型のサイズで描かれています。画家自身の筆の跡が感じ取られると同時に、現在フジタが夫人と共に眠っている礼拝堂の雰囲気も日本に居ながら感じ取ることのできる、貴重な作品群といえます。
もうひとつの見どころは、17世紀から20世紀初頭まで、ランスというフランスの地方都市の観点から、フランス絵画の歴史を通観できる点にあります。
ランス美術館はフランス革命中に設立された美術館ですが、おもにこの地方の特産品であるシャンパーニュ(シャンパン)の醸造や毛織物産業で財を成した個人所蔵家からの寄贈によって、おもだったコレクションが形成されてきました。こうした所蔵家たちが当時、どのような観点から作品を収集してきたのか、首都パリとは異なる側面からフランス絵画の成り立ちを見ることができる展覧会といえるでしょう」
海外初公開のフジタ作品が見られる展覧会です。ぜひ足をお運びください。
【今日の展覧会】
『フランス絵画の宝庫 ランス美術館展-ダヴィッド、ドラクロワ、ピサロ、ゴーギャン、フジタ…』
■会期:2017年4月22日(土)~6月25日(日)
■会場:東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館
■住所:東京都新宿区西新宿1-26-1 損保ジャパン日本興亜本社ビル42階
■アクセス:新宿西口より徒歩約5分
■電話番号:03・5777・8600(ハローダイヤル)
■WEBサイト:http://www.sjnk-museum.org/
■開館時間:10時から18時まで、金曜日は19時まで(入館は閉館30分前まで)
■休館日:月曜日
取材・文/池田充枝