文/鳥居美砂
旧暦の3月3日は、女の節句です。沖縄ではこの日、女性は浜に下りて手足を海水に浸け、不浄を払い落として身を清めます。「浜下り(ハマウリ)」と呼ばれる行事です。こう書くとなんだか堅苦しいようですが、ご馳走を持ち寄り、潮干狩りやおしゃべりをしながら、浜辺で楽しい時間を過ごすのです。
現在では行事色は薄くなり、家族や友人たちと一緒に潮干狩りに興じたり、浜辺でバーベキューをして楽しむ人もいるようです。新暦だと今年は3月30日にあたり、海水に裸足を浸けても気持ちがよい頃です。
松本料理学院の学院長・松本嘉代子さんはこう語ります。
「この日、女性たちは思い思いのお重を作ったものです。浜下りの華やかな重詰料理は『三月御重(サングヮチウジュウ)』と呼ばれ、四段一組の重箱に山海の幸が彩りよく詰められました。一の重は魚てんぷら、肉(シシ)かまぼこ、烏賊(いか)に包丁細工を施した花いか、ごぼう巻きなど。二の重は赤飯のおにぎり、三の重には三月菓子(サングヮチグヮーシ)、そして四の重によもぎ餅(フーチムチ)を詰めます」
女性の節句とあって、お菓子は欠かせません。今回は、その中から「三月菓子」の作り方を紹介しましょう。
使う材料は沖縄を代表するお菓子、「サーターアンダギー」と同じですが、その分量が変わってきます。一番の違いは、生地を膨らめせるためのベーキングパウダーの量が少ないことです。さらに、形もまったく異なります。
【三月菓子(サングヮチグヮーシ)】
<材料>
卵 3個
砂糖(グラニュー糖) 200~230g
サラダ油 大さじ11/2
小麦粉 350~400g
ベーキングパウダー 小さじ1/2
打ち粉 適量
揚げ油 適量
<作り方>
(1)ボウルに卵を割り入れて砂糖を加え、泡立て器で泡を立てないように一気に20回ほど混ぜる。
(2)(1)にサラダ油と好みで、白ごまを加えて軽く混ぜ合わせる。
(3)(2)の中によくふるった小麦粉とベーキングパウダーを入れて混ぜ合わせ、ひとつにまとめてラップをかぶせ、冷蔵庫に30分ほど休ませておく。
(4)(3)の生地を3〜4等分に分けてまとめる。
(5)まな板の上に打ち粉をして(4)を棒状にし、厚さ7〜8㎜、幅6㎝の長方形に手で伸ばす。
(6)2~3か所に切り込みを入れて3.5~4㎝に切る。
(7)165~170度の揚げ油に(6)の生地を、切り込みの入った方を上にして入れ、浮き上がってきたら急いで裏返して色よく揚げる。
(3)で生地を冷蔵庫に寝かせるのは、生地を安定させるのが目的です。長過ぎると硬くなるのでご注意を。
食べて美味しいのは生地が少しやわらかめですが、その分、形になりにくくなります。
「今回は生地の中に白ごまを入れましたが、刻んだピーナッツやレモンの皮などを入れても、香ばしくいただけます。
(5)(6)で5㎝長さの2cm幅に切って揚げると、棒菓子になります。重箱に詰めるときは伝統の形にして、家庭で気軽に食べるなら、手でつまめる棒菓子にするのもいいでしょう」(松本先生)
サクサクとした食感で、白ごまの風味も香ばしく、後を引く美味しさです。
浜下りでも女性たちはおしゃべりしながら、つい、もうひとつと手を伸ばしたことでしょう。潮風が心地よい海辺での、そんな光景が浮かんできます。
文/鳥居美砂
ライター・消費生活アドバイザー。『サライ』記者として25年以上、取材にあたる。12年余りにわたって東京〜沖縄を往来する暮らしを続け、2015年末本拠地を沖縄・那覇に移す。沖縄に関する著書に『沖縄時間 美ら島暮らしは、でーじ上等』(PHP研究所)がある。