取材・文/藤田麻希
朝鮮半島で470年間続いた高麗王朝時代は、仏教が国教と定められ、仏教文化が華開きました。特に13世紀なかばから14世紀を中心に制作された仏画は「高麗仏画」と呼ばれ、珍重されています。
現在「高麗仏画」は世界中で165点余りしか確認されておらず、そのうちの100点以上が、本家の韓国ではなく日本に伝わっています。
そんな稀少な高麗仏画が26点も集合するまたとない展覧会が、東京の根津美術館で開かれています(~2017年3月31日まで)。実は東京でまとまって高麗仏画が見られる、初めての展覧会です。
まず高麗仏画の主題は、阿弥陀如来と観音菩薩が大半を占め、ポーズや構図に共通しているものが多いです。
そしてなんといっても見どころなのは、繊細で優美な装飾です。仏様が身につける衣に描きこまれる、唐草文、亀甲文、鳳凰文などの文様は一分の隙きもないほどの細かさです。そのほとんどは、日本の仏画でよく用いられる截金(細く切った金箔等を張り合わせて文様を表現する技法)ではなく、金泥(金の粉末を膠でといたもの)で描かれます。
また、顔料同士を混ぜ合わすことなく使用するため、衣の地に用いられた、朱、緑青、群青などの鮮やかな色が、ダイレクトに目に飛び込んできます。
私が最も目を奪われたのが、白いベール状の布の描き方です。日本では薄く白い絵の具を塗ることで表しますが、高麗仏画の場合、一気に塗ってしまうようなことはせず、細い線を網状に引くことで表しています。
無数の白い線を書く、気の遠くなるような作業ですが、そのかわりベールの下の肉身や衣の色が邪魔されることはありません。肉眼で見ることが叶わないほど細かなものですので、単眼鏡をお持ちの方はぜひ持参されることをおすすめします。
また、装飾以外にも日本の仏画と高麗仏画の違いはあります。根津美術館の学芸員、白原由起子さんは次のように説明します。
「高麗の阿弥陀さんは、日本と同じ来迎図として描かれていますが、向きが逆です。日本では向かって左から右に角度を付けて描かれますが、高麗では例外なく右から左に描かれ、角度もあまりつきません。ゆったりふんわりといった雰囲気です。風の表現もあまりなく、画面に大きく、威厳をあらわすように描かれます」
日本でも同時代に、京都・知恩院の阿弥陀二十五菩薩来迎図(早来迎)に代表される来迎図が多く生み出されましたが、そのドラマチックな描き方に比べると、確かに静謐で荘厳な雰囲気を感じます。
隣国同士でこうも表現が違うことに驚くとともに、仏画を鑑賞する楽しみ方を広げてくれる展覧会です。
【特別展 高麗仏画 香りたつ装飾美】
■会期/2017年3月4日(土)〜3月31日(金)
■会場/根津美術館
■住所/東京都南青山6-5-1
■電話番号/03・3400・2536
■料金/一般1300円 学生[高校生以上]1000円
*20名以上の団体、障害者手帳提示者および同伴者は200円引き、中学生以下は無料
■開館時間/10時から17時まで。(入館は各閉館30分前まで)
■休館日/月曜日 ただし3月20日(月・祝)は開館、翌21日(火)閉館
■アクセス/
地下鉄銀座線・半蔵門線・千代田線表参道駅下車
・A5出口(階段)より徒歩約8分
・B4出口(階段とエレベータ)より徒歩約10分
・B3出口(エレベータまたはエスカレータ)より徒歩約10分
■美術館公式サイト/http://www.nezu-muse.or.jp/
取材・文/藤田麻希
美術ライター。明治学院大学大学院芸術学専攻修了。『美術手帖』