ライターI(以下I):『光る君へ』第32回では、いよいよまひろ(演・吉高由里子)が「藤壺」に出仕します。俗に十二単といわれる女房装束に身を包み、居並ぶ女房陣に挨拶をします。なんだか完全アウェーな雰囲気でした(笑)。
A:『栄花物語』の巻六「かがやく藤壺」には彰子入内の際に「女房四十人、童女六人、下仕六人」がともに内裏に入ったことが記されています。『新編 古典文学全集』(小学館刊)の口語訳では「たいそう厳しく選択なさったので、その器量や人柄はもちろんのこと、四位、五位の家の女であっても、とくに世間づきあいもよくなく、生立ちのかんばしくない者は押して奉仕させるわけにいかないとあって、どことなく気品があって育ちの立派な者だけを選りすぐられた」と説明されています。
I:「かがやく藤壺」とは『輝く! 日本レコード大賞』のような巻名ですね(笑)。でも位の高い家の出身者ばかりのところにひとりで「乗りこむ」なんて、気が重いですよね。
A:次週を楽しむための要諦になりますので、中宮彰子の後宮について、いち早く解説しましょう。いちばん前にいた「宮の宣旨」(源陟子=ただこ/演・小林きな子)は、醍醐天皇のひ孫という毛並みのよさ。「大納言の君」(源廉子/演・真下玲奈)と「小少将の君」(源時子/演・福井夏)は、道長(演・柄本佑)の正妻倫子(演・黒木華)の姪にあたる人物。宰相の君(藤原豊子/演・瀬戸さおり)は道長の異母兄で大納言道綱(演・上地雄輔)の娘、さらに道長の二妻源明子の姪にあたる馬中将の君(劇中では藤原節子/演・羽惟)、左衛門の内侍(橘隆子/演・菅野莉央)ともいわれる女性など、濃厚な人物が居並びます。こういう「重たい場所」で錚々たる人物と対峙するまひろの胸中を思うと……才能があってこの場所に引き上げられたとはいえ、胆力とか鈍感力がなければやっていけないような雰囲気です。
I:ここで出てくる「宮の宣旨」とか「大納言の君」という呼称は「清少納言」や「藤式部(紫式部)」と同様の女房名(にょうぼうな)ですね。
【女房名が「源氏名」といわれるように。次ページに続きます】