ライターI(以下I):『光る君へ』は63作目の大河ドラマになります。これまで9回を視聴し終えて痛感するのは、「なぜ今までこの時代を扱わなかったのか」という思いです。
編集者A(以下A):確かに、これまでドラマであまり登場することのなかった藤原道長、紫式部はもちろん、源倫子や赤染衛門、藤原道綱の母(劇中では藤原寧子)、さらには円融天皇、花山天皇などが映像で登場する日がくるとはと感慨深い思いに駆られます。そして、その映像を見ることで、この時代の輪郭がよりくっきりと浮かび上がってくるような感じがします。
I:解像度がアップしたという人もいますよね。
A:『光る君へ』第9回ではまひろの弟藤原惟規(演・高杉真宙)が大学寮に入るということで、乳母のいと(演・信川清順)も含めた家族一同で送別する様子が描かれました。この場面を題材にして「大河効果」について言及したいと思います。
I:なるほど。それでは、その場面から解説してください。
A:父為時(演・岸谷五朗)が中国古典籍から、一念通天(一心に念じ続けて努力をすれば報われる)、率先垂範(先頭に立って模範を示すこと)、温故知新(過去の事実を研究し、そこから新しい知識や見解をひらくこと)、独学固陋(独学での学問は見識が狭くなる)の4つの四字熟語を口頭で唱えました。よせばいいのに(笑)、まひろが、「今のわかった?」とかぶせます。それに対する惟規の答えが「ひとつわかった!」。現代でもっとも知られているのは「温故知新」でしょうか。惟規が覚えていたのはどれなのでしょう。
I:そんなこと考えて見ていたのですか?
A:はい。同時に、この清貧に甘んじる一族のその後についても思いを馳せました。惟規の曾祖父、為時からは祖父にあたる藤原兼輔は権中納言まで昇進して公卿に列しましたが、為時の代にやや零落しています。
I:惟規に至っては、劇中では「まひろが男であったなら」という為時に嘆かれるキャラクターだったのが印象的です。『紫式部日記』にも記されているこのエピソードが本作の惟規のイメージを決定付けている印象があります。
A:惟規も歌人としてそこそこの人材でしたが、惟規の「孫の孫(玄孫)」である藤原邦綱が権大納言まで昇進して、藤原兼輔以来久しぶりに公卿に列します。多くの国の受領を歴任し、財を貯え、時の権力者平清盛にも取り入って得た地位です。
I:清貧の為時とは違って貪欲に頑張ったんですね。そのエピソードを知って為時、惟規、まひろ、いとの「送別の場面」を振り返ると涙がこぼれそうになります。
【九条兼実の日記に記された「惟規の子孫」。次ページに続きます】