ウイスキーファンの期待を集め新しい観光施設としても注目
小諸蒸留所(長野県小諸市)は令和5年(2023)7月に開業したばかりの真新しい蒸留所だ。浅間山のふもとの約1万平方mの敷地に蒸留所とビジターセンター、貯蔵庫などを構える。
標高は約910m、ウイスキー蒸留所としては標高の高いところに位置し、眼下に小諸市街を望む。稼働から間もないため現在は仕込みの段階で、令和8年の上半期にシングルモルトを出荷する予定だ。将来的には年間20万Lの生産を目指す。
蒸留所を案内してくれたのは、マスターブレンダーのイアン・チャンさんだ。チャンさんは台湾のウイスキー蒸留所「カバラン」のマスターブレンダーとして、国際品評会で受賞を重ね、ブランドを世界に知らしめた人物。カバラン退社後は蒸留所のコンサルタントをしていたが、計画に意気投合し再び蒸留所を起ち上げることになった。チャンさんが小諸蒸留所のマスターブレンダーに就任した報せは、内外のウイスキー関係者を少なからず驚かせた。開業間もない蒸留所が注目を集める所以だ。
蒸留所をこの地に決めた理由を、チャンさんはこう語る。
「小諸の冷涼な気候が、スコッチウイスキーの生産地であるスペイサイドに似ていること。さらに地下水がミネラルを多く含む硬水で、酵母の発酵にとてもよい影響を与えてくれるのです」
長野県に移住したチャンさんは「日本に骨を埋める覚悟」だという。
「あと日本食がとてもおいしい。これも日本に来る大きな決め手になりました(笑)」
製造工程を見学できる
蒸留所はビジターセンターに隣接し、来訪者に公開されている。英国フォーサイス社の蒸留器が2基据えられ、モルトの製麦、糖化、発酵、蒸留、熟成といったウイスキーの製造工程をひと通り見学することができる(要現地予約)。
業務に携わるのは現在15人前後で、開業に合わせて入社した若い人が多い。大学で醸造を学んだという女性は「チャンさんのもとでウイスキー造りに携われるのはとてもラッキーです」と話す。
「10年、20年と熟成させたウイスキーがどんなものになるのか、今からとても楽しみです。ウイスキー造りは時間がかかります。初出荷まであと2年、時間が早送りで過ぎればいいのにと思います(笑)」(チャンさん)
ウイスキーを学び、バーで味わう
小諸蒸留所の建設においては、小諸市が用地選定などの支援を行なった。当初から蒸留所では見学者を広く受け入れる方針であったため、自治体としても観光客を誘致し地域活性化に役立てたいと、両者の思惑が一致した。
蒸留所に併設されたビジターセンターは1階がウイスキーグッズのショップとバー、2階が「ウイスキーアカデミー」というセミナースペースになっている。いずれのフロアからも蒸留所内が見渡せて、ウイスキー造りの現場を目の当たりにできる。
入場は有料で2種の見学プランから選ぶ。今はまだ蒸留所のウイスキーは飲めないが、製造エリアの見学や飲み比べなどを通して、ウイスキーの知識がひと通り学べる仕掛けだ。
小諸ブランドを確立したい
2年後に出荷されるシングルモルトウイスキーには「KOMORO」の名が冠される。
「鯖江 (福井県)が眼鏡で有名になったように、小諸といえばウイスキーといわれるように、地域と一緒にブランドイメージを作り上げていきたいと思っています」(チャンさん)
小諸蒸留所
長野県小諸市甲字軽石4630-1
電話:0267・48・6086
交通:JR、しなの鉄道小諸駅よりタクシーで約10分 送迎あり(要予約)。
見学要項:
プラン1「コモロ エクスペリエンス」はウェルカムドリンクと製造エリアの見学ツアーなど。ひとり2500円。
プラン2「コモロ アカデミー」はテイスティング講座と製造エリアの見学ツアーなど。ひとり3000円〜。受け付けは10時〜18時。要予約(定員に空きがあれば当日でも可能)。
※この記事は『サライ』本誌2024年3月号より転載しました。