ライターI(以下I): 前週に、迷猫になったと視聴者を心配させた源倫子(演・黒木華)の愛猫小麻呂(こまろ/演・ニモ)が無事に倫子のもとに帰還していたことが確認できました。探しに行った小麻呂を放ってしまうほどショックを受けたまひろ(演・吉高由里子)がいじらしいです。
編集者A(以下A):冒頭で元気な猫を出してくるとは粋な演出でした。源倫子は、猫好きだった宇多天皇のひ孫ですし、彼女の猫好き設定には違和感はありません。今後も猫好きの帝が出て来ますので、小麻呂の後継猫が登場するのかどうかも含めて注目ですね。
I:さて、源倫子を囲むサロンでは、打毬(だきゅう)の話題で持ちきりでした。なんだか共学校で強豪運動部のスター選手のことを話題にしているようでした。私が印象に残ったのが赤染衛門(演・凰稀かなめ)が直秀(演・毎熊克哉)の雄姿に惹かれたことを告白して冷やかされた時に発した〈人妻であろうとも心の中はおのれだけのものにございますもの〉です。
A:このあたりは「ラブストーリーの名手」とも称される大石静さんの面目躍如という感じですね。 その後に続いた「そういう自在さがあればこそ、人はイキイキと生きられるのです。目移りは殿御だけに許されたものではありませんわ」という台詞が「平安のリアル」をついているのが凄いところなのです。実際、この時代、和歌のやりとりなど手順を踏んで、お互いの意志を確認できれば男性だけではなく、女性も奔放だったことが記録されたりしています。そこが現代の恋愛観念とは異なるところでしょうか。
「兼家倒れる」からすべてが始まった
I:花山帝(演・本郷奏多)の御代に実権を握ろうと懸命だったのが、藤原義懐(演・高橋光臣)です。
A:義懐の姉の藤原懐子が冷泉天皇に嫁ぎ、その間に生まれたのが花山帝です。本来であれば、懐子と義懐の父である伊尹(これただ)が外祖父として、実権を握るところですが、すでに亡くなっていたので、外叔父である義懐が帝の後見として権勢を発揮しようとしている段階なわけです。
I:義懐の父伊尹(師輔長男)と兼家(師輔三男)は母を同じくする同腹兄弟。そのため、義懐と道隆、道兼、道長は従兄弟になります。兼家からすれば、中納言に過ぎない甥の義懐が花山帝の威を借りて右大臣である自分を抑えて専横しようというのですから、心中穏やかではないですよね。
A:劇中では、兼家は義懐の横暴な態度に切れて、その流れの中で倒れてしまいます。「右大臣兼家倒れる」の報せに喜ぶ花山帝の姿が印象的でした。兼家の屋敷では、寄坐(よりまし)の女性が、大げさに 忯子の霊が兼家に祟っていることを語ります。「ノウマク・サンマンダバザラダン・センダ・マカロシャダ・ソワタヤ・ウンタラタ・カンマン」と不動明王の真言を唱えての祈祷も行なわれましたが、兼家が目を覚まします。ここから、安倍晴明(演・ユースケ・サンタマリア)が噛んで何か秘密の話が行なわれたような……。
I:なんだか大きな謀のような雰囲気です。
A:あ、やっぱりそう思いました? 私は、ここからの一連の流れに衝撃を受けました。兼家が倒れて、祈祷が行なわれる。寄坐が忯子の霊が成仏していないと断じ、そのことを、晴明が花山帝に奏上する。一方で、為時(演・岸谷五朗)が、道兼(演・玉置玲央)は父兼家から疎遠にされていることを帝と義懐に報告するのです。
I:まじめな為時はまったく疑いもなく、という風情でした。しかも、道兼の腕には自傷したものなのか、傷ができていました。
A:花山帝に「忯子の霊が成仏していないこと」を強く印象付ける壮大なる仕掛けと受け取りました。その答えは次週、あるいは次々週に明らかになると思われます。
I:なんだかゾクゾクしてきますね。
【世渡りベタな為時。次ページに続きます】