新帝花山天皇の親政に抗う「守旧派」貴族たち。「母殺しミチカネ」を初めて道長と共有するまひろ……。『光る君へ』第5回を振り返る。
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ライターI(以下I):前週、舞姫として五節舞を舞ったまひろ(紫式部/演・吉高由里子)が、自分の母を刺殺した藤原道兼(演・玉置玲央)を現認し、その隣に道長(演・柄本佑)がいることで衝撃を受けた場面が登場しました。
編集者A(以下A):その衝撃で、寝こんでしまったという場面から第5回はスタートしました。いと(演・信川清順)がわざわざ寄坐(よりまし)の女性と僧を呼んでくれました。物の怪あるいは怨霊に取り憑かれたのではないかと心配してのことだと思われます。この時代を象徴する場面ですね。
I:『源氏物語』では夕顔や葵の上の場面で物の怪やら六条御息所の生霊やらが登場しますからね。いとからすれば、なぜまひろが寝込んだのかわからないわけですから。それにしても平安中期の空気感をこれでもかというほど入れ込んできますね。
A:そういうことを考えると、亡き母の琵琶を手にしたまひろが「道兼……弟は三郎」とぼんやりしていた場面を見て、「ああ、そういえば『源氏物語』には琵琶が奏でられるシーンがけっこうあるな」とか、父為時(演・岸谷五朗)とまひろのやりとりの中で「お前が男なら大学で立派な成果をあげ、自分の力で地位を得たであろう」の場面を見て、『源氏物語』で光源氏が息子の夕霧を大学寮に通わせていたなとか思い出してしまいますよね。
I:道長とまひろが夜、こっそり会った廃墟も、『源氏物語』で光源氏と夕霧が過ごした「何某の院」のようでもあります。『光る君へ』には、『源氏物語』の世界観があふれています。1年間見終えた後に『源氏物語』を読み始めたらいろいろな箇所で「!」となってくるかと思いますね。
A:大石静さんの脚本が絶妙なところは、文学部国文科(あるいは日本文学科)で中古文学(古代後期、平安時代)を学んだ人、中古文学を趣味で楽しんでいる人はもちろん、これまでまったく興味のなかった人でも面白く見られるようになっているところですね。なんという高等テクニック!
花山天皇は本当に乱倫だったのか?
I:さて、藤原義懐(演・高橋光臣)、藤原惟成(演・吉田亮)らと新帝花山天皇(演・本郷奏多)が荘園整理など矢継ぎ早に新政策の実行に取り掛かる様子が描かれました。
A:新帝に近い人から見れば「改革」であり、旧来の人々からみれば「新帝の暴走」ということになるのでしょうか。最終的にどちらに軍配があがるのか、というのは今後のドラマを見ていただきたいですが、「歴史は勝者によってつくられる」という定石通りの流れになってくると思います。花山天皇が乱倫であるというエピソードもそうした枠組みの中で、貼られたレッテルと考えてもいいかもしれません。
I:花山天皇も取り組んだ「荘園の整理」はまさに、藤原頼忠(演・橋爪淳)、兼家(演・段田安則)たち藤原権門と呼ばれる人たちの利権に絡んでくる施策ですからね。
A:ざっくり説明すると、荘園は藤原氏などの私領の側面があり、そうした土地が増えると、国に入る税が減ってしまいます。そのため度々、荘園の整理というのが政治的な課題になるわけですが、藤原氏などの抵抗で実現できなかった。歴史の教科書などでもおなじみの後三条天皇の「延久の荘園整理令」はこの時代から百年弱ほど後になりますが、これは後三条天皇が藤原氏と外戚関係がなかったためできたという側面があります。
I:藤原氏との外戚関係のない天皇は170年ぶりということだったんですよね。
A:さて、そうした中で、道長ら若手貴族の面々がその新帝の親政に関心を示す様子も描かれました。その一方で、藤原頼忠、源雅信(演・益岡徹)、藤原兼家らが新帝の親政の取り組みに対して反対することで意見の一致をみました。花山天皇の側からみれば「頼忠、雅信、兼家」らは「守旧派」ということになるわけです。
A:花山天皇がどうなっていくのか――。制作陣の手腕が問われる前半のトピックスになりますので、注目して見ていきましょう。
I:さて、今週も左大臣源雅信の息女倫子(演・黒木華)を囲む集い(セレブ女子会)が開かれました。女子会の参加者でまひろとともに五節舞に参加していた肇子(演・横田美紀)に、求愛の申し込みがあったことが「報告」されました。その申し込みをした侍従宰相役で登場したのがザブングル加藤さん!
A:瞬間的な登場ですが、メイクをして衣装を身につけかつらをかぶっての登場です。願わくば、今後、実資(演・秋山竜次)と絡んでくれたらと思うのですが……。
I:さて、堂上貴族を前にして良家の子女が舞うということは、「顔見せ」のような側面もあったことを教えてくれる場面になりました。ほんとうにこのころは平和だったんだと思いますね。
【源倫子と猫。「愛猫無罪」の描写。次ページに続きます】