源倫子と猫。「愛猫無罪」の描写
I:前週に源倫子が抱いていたキジシロの猫の名前が判明しました。「こまろ」ですね(笑)。漢字は「小麻呂」でしょうか? 前出の藤原頼忠、兼家、源雅信の密談のさなかに部屋にこまろが入り込んできたという設定でした。
A:思わず膝を打つ、絶妙な設定でした。関白と左大臣、右大臣が密談する場に、娘の倫子が入ってくるなど本来はありえません。しかし、愛猫を追っかけてうっかり入って来たというなら話は別。むしろ「有り」でしょう(笑)。猫だったら何をされても許してしまうという「愛猫無罪」的な場面になりました。猫好きにはほっこりする場面になりましたね。
I:前週も言及しましたが、この時代の宮廷では宇多天皇や一条天皇が猫と暮らしていたことが知られています。左大臣家の倫子が猫と暮らしていてもまったく不自然ではないわけです。『源氏物語』好きの方々にとっては、『源氏物語』第三十四帖「若菜上」で、猫が他の猫に追いかけられて逃げて、つけていた紐が絡まって御簾が上がってしまい、外にいた柏木らが女三の宮の姿を見てしまった、という場面を思い出したかと思います。
A:この場面で、兼家が左大臣家の倫子の人となりを認知するという風でした。もしかしたら兼家も猫好きで、同じ猫好きの倫子を息子の嫁にしたいと直感してしまうという設定なら面白いですね。
I:道長の父と倫子が出会うという、けっこう重要な場面でもありました。すでに道長と藤原宣孝(演・佐々木蔵之介)も対面し、まひろは源倫子の集まりに顔を出す身。道長、まひろ、倫子、宣孝……。4者の人間模様にも注目ですね。
道長とまひろの「コイバナ」の謎
I:そして、今週のメインは道長とまひろとのやり取りで、まひろの母ちやは(演・国仲涼子)を殺害した人物が、道長の兄道兼であることなどを告白することになりました。
A:道長とまひろ(紫式部)の関係は、『源氏物語』の成立過程=「なぜ藤原氏全盛の時代に『光源氏』を主人公とする『源氏』の物語を描いたのか」という謎にかかわる問題でもありますので、単なるラブストーリーではないとにらんでいます。いったいどのような展開にしていくのか興味がありますし、こちらも制作陣の手腕が問われる重要な場面ということで、プレッシャーをかけておきたいと思います。
I:私は源倫子の何事にも鷹揚で身分の違いにも頓着しない姿を見て、なぜだかわくわくが止まらないんです。劇中での倫子の姿を見ていて、摂関時代の全盛期といわれる時代を創ったのは、倫子なのでは? と思ったりするくらいです。
A:大河ドラマで源倫子が登場するのは初めてですからね。やっぱりドラマの登場人物となると「気づき」が多いですね。
●編集者A:月刊『サライ』元編集者(現・書籍編集)。「藤原一族の陰謀史」などが収録された『ビジュアル版 逆説の日本史2 古代編 下』などを編集。古代史大河ドラマを渇望する立場から『光る君へ』に伴走する。
●ライターI:文科系ライター。月刊『サライ』等で執筆。『サライ』2024年2月号の紫式部特集の取材・執筆も担当。お菓子の歴史にも詳しい。『光る君へ』の題字を手掛けている根本知さんの仮名文字教室に通っている。猫が好き。
構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり