文/鈴木拓也
ヨーロッパで広く行われた研究で、健康寿命を延ばすスポーツの特徴がわかった。それは「社会的交流があるかどうか」だという。つまり、ひとりでなく「誰かと運動をする」だけで健康寿命が延びる可能性があるのだ。
そして、数ある健康法のなかでも、「ウォーキング」ほどよく知られているものはないだろう。その効果については、多くのエビデンスが出ており、手軽にできる運動の中では、お墨付きといえる。
そのウォーキングだが、一人で黙々とやるものというイメージがあって、習慣化しにくいと感じた人が多いのも事実。
そこで、二人で一緒にウォーキングをするという新発想の「ふたりウォーク」を提唱するのは佐々木千紘(ちひろ)さん。理学療法士で一般社団法人ウォーキングヘルス協会の代表理事として、のべ一万人以上の歩き方をサポートしてきた方だ。
佐々木さんは、著書『ふたりウォーク ふたりで歩けばうまくいく』(Gakken)で、ふたりウォークについて次のように説明する。
誰かと一緒に、一番効果のあるフォームを身につけながら、コミュニケーションを取って歩く。楽しく続けていたらいつの間にか体も心もその人との関係性も健康になっている。
ふたりウォークで得てほしいのは、そんな状態です。(本書44~45pより)
互いに猫背をチェックして改善する「肩甲骨よせ」
ふたりウォークのメリットは、楽しく習慣化しやすいというのがあるが、それにとどまらない。佐々木さんは、「脳が若返る」「姿勢がキレイに」「幸せ度アップ」など挙げる。いずれも、ともに歩くパートナーがいることで生まれる利点だ。
なかでも大きいのは、一人では気づきにくい姿勢・歩行のクセを、互いにチェックできること。佐々木さんによれば、人は使いやすい筋肉を使い、ふだんから使いにくい筋肉はあまり使わないという。やがてそれは、健康を損なう動作のクセとして定着してしまう。ふたりウォークでは、その改善に力点が置かれる。
例えば猫背。背骨の本来のカーブが崩れ、胸から首が丸くなったこの姿勢は、肩こり・腰痛の原因の一つとされる。ふたりウォークでは、歩きはじめる前に、以下の要領で相手の姿勢をチェックする。
確認するポイントは、「肩甲骨の間が開きすぎていないか」「肩が上がっていないか」「体が後ろに反っていないか」の3つ。写真のように手をあて、肩甲骨をよせて下げる。同様に本書には、スマホ首、巻き肩、肩こりなど、さまざまな問題の改善方法が解説されている。
歩きながらぽっこりお腹を改善する「背中押し歩きで腹圧アップ」
上記のメソッドは、ウォーキングを始める前の準備だが、ウォーキングしながらの改善法も掲載されている。その1つが、「背中押し歩きで腹圧アップ」。ぽっこりお腹に効くそう。
佐々木さんは、見た目をよくしようと、胸を張りすぎている人が多いことを指摘する。しかし、これではかえって、「腹圧に関係するお腹の筋肉や呼吸筋などはうまく働かず、ぽっこりお腹に」なってしまうという。体の中心を強化し、しっかり働けるようにするため、このウォーキングは効果的。チェックするポイントは、歩いているときに力が抜ける瞬間がないか、体重を乗せているだけ(よりかかっている)になっていないかの2点。このとき、少し前かがみになっても問題はない。
前向きにほめ合って効果アップ
こうした、ふたりウォークがうまくいくコツとして、佐々木さんは相手への「声掛け」が大事と説く。
基本は、「ここがよくない」などと注意するのではなく、ポジティブにほめる。「そのフォームきれい」「この前よりうまい」など、簡単な伝え方でOK。ただし、「さっきのアレよかったよ!」のような不明瞭な言い方は避け、「さっきの足の振り出し方がきれいだったね」というふうに具体的に伝える。
この、ほめるフィードバックは、5分に1回くらいの頻度が適切。佐々木さんは、「伝えすぎ注意!」と記しているが、それは自分で考えることをやめてしまい、相手のアドバイス頼みになってしまうから。歩き方の正しいフォームを身につけるには、自分で考え修正を繰り返すことも必要。1つ何かを指摘したら、そのあとの5分は何も言わないことを心がけよう。
『ふたりウォーク』は、ふたりで歩いてお互いに健康になるだけでなく、関係も良くするウォーキングメソッドだ。
会話の少なくなった夫婦、健康が心配な両親、ともに健康になりたい相手と「歩こうか」を日課にしていこう。
【今日の健康に良い1冊】
『ふたりウォーク ふたりで歩けばうまくいく』
文/鈴木拓也 老舗翻訳会社役員を退任後、フリーライター兼ボードゲーム制作者となる。趣味は神社仏閣・秘境巡りで、撮った映像をYouTube(Mystical Places in Japan)に掲載している。