ライターI(以下I): まさか今川氏真(演・溝端淳平)が再登場してくるとは思いもよりませんでした。当欄では、晩年の家康と氏真に「昔語り」をしてほしいと(https://serai.jp/hobby/1120603/2)リクエストしましたが、築山殿事件のタイミングで再登場するとは驚きでした。
編集者A(以下A):「氏真」という副題がつけられた第12回では合戦のさなかということもあって正室の糸(早川殿/演・志田未来)に辛くあたっていましたが、今回は史実に沿って、仲睦まじい夫婦として登場してくれました。
I:その溝端淳平さんが、本編では描かれていない氏真と糸の「時の流れ」についてコメントを寄せてくれました。
本編では描かれていない間に、糸は純粋無垢で以前にも増して逞しい女性になっていると想像しました。きっと夫婦が信頼し合っていることが土台にあり、ある種これが糸本来の姿だったのかなとも思います。氏真に関しては、この戦乱の世で自分に何ができるのか、今川家をどう守っていくかを必死に模索している最中で、以前より落ち着き、やっと地に足がついた考え方ができ、この時代を家康たちとは違う角度で見ている印象です。再登場のシーンでは、そうした歳月が雰囲気として表れればと思い臨みました。
I:雰囲気というか佇まいというか、溝端さんが意識していたものがしっかり感じられるような仕上がりだったと思います。「武将」としては、大成しなかった氏真ですが、かえってそれがよかったのかもしれません。
A:名門とか二世とか、継承していかないといけないのは辛いと思う人がいるのかもしれません。ちょっと古い話ですが、2000年には二世だった久野統一郎代議士が父のあとを継いで代議士になりましたが、10年つとめあげた後、「やっぱり自分には向いていない」ときれいさっぱり政界引退したということもありました。今日の氏真を見て、そんなことを思い出しました。
I:世襲の政治家と名門武家を比べるのはなんか違うような気もするのですが……。さて、溝端さんは、今週の瀬名の謀について、なぜ氏真は賛同したのか? という質問にも答えてくれました。
台詞にもありましたが、それが父(今川義元)の願っていた理想に近かったことが第一であると思います。あとはこれまで紆余曲折ありましたが、幼なじみである瀬名の願いでもあったからではないでしょうか。義元公の理想を、大きなリスクを背負ってでも自分と家康と瀬名で叶えることが、価値のあるものと氏真は考えたのだと思います。
A:最終的に「平和」は家康のもとで実現していきます。物語がどうやって紡がれていくのか。やっぱり最後はともに70歳を越えた家康と氏真が昔語りするシーンは見たいなあ。
●編集者A:月刊『サライ』元編集者(現・書籍編集)。歴史作家・安部龍太郎氏の『日本はこうしてつくられた3 徳川家康 戦国争乱と王道政治』などを担当。『信長全史』を編集した際に、採算を無視して信長、秀吉、家康を中心に戦国関連の史跡をまとめて取材した。
●ライターI:三河生まれの文科系ライター。月刊『サライ』等で執筆。『サライ』2023年2月号 徳川家康特集の取材・執筆も担当。好きな戦国史跡は「一乗谷朝倉氏遺跡」。猫が好き。
構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり