大身の名門大名が続々と没落していった時代
I:しかし、今川、武田、北条 、西でいえば大内など大身大名が没落・滅亡していったのが戦国時代。かなりのインパクトですよね。
A:現代でいえば、財閥系の超有名な企業グループが下請けの企業の離反にあってバタバタと倒れて、新興企業に凌駕されていくという構図でしょうか。今川も結局有力家臣や国人領主が続々と武田に寝返ったことが致命傷になりましたし。
I:その例えが妥当かどうかはわかりませんが、激動の時代とはそういうことなのでしょう。武田の調略も人の心をくすぐるものだったのでしょうか。
A:そういうのを想像するのも楽しいですね。あの「超濃厚な」阿部信玄がどんな甘言をつかったのかって……。
I:さて、実はひとつ気になっていることがあります。家康が今川義元から拝領したという「金陀美具足」ですが、桶狭間以降、信長との清須同盟を結んだにもかかわらずいまだに着用しています。義元から偏諱を受けた「元康」は「家康」に改名して「元」とは決別しているのに。
A:金陀美具足は本作を象徴する具足ですからね。私は、金陀美具足を常時着用する家康を描くことには強烈なメッセージが込められていると思っています。
I:どういうことでしょう。
A:1997年に全国東照宮連合会が編纂した『披沙㨂金(ひさかんきん*) 家康公逸話集』
*「かん」はてへんに東の旧字体
という本があります。その中に、家康は将軍になってからも、今川義元が討死した塚の前を通る際は、必ず下乗、下輿して敬意を表したという逸話が収録されています。家康にとって今川義元や、劇中では登場していませんが太原雪斎などとの交流が生涯忘れ難い思い出だったのではないかと感じています。だからこそ、金陀美具足を大切にしているのだと。
I:なるほど、そうした家康の今川義元をリスペクトする思いを密かに表現しているということなんですね。確かに甲冑のサイズが合わなくなったりしないのかなとも思ったりしますから。
A:甲冑のサイズは都度都度リサイズすればいいですし……。そしてもうひとつあります。氏真と対峙した家康は〈死んでほしくないからじゃ! 今も兄と思っておるからじゃ!〉と氏真に対する思慕を吐露しました。家康がそんなこと思うわけない! と思った人もいたかもしれません。でも、前出の家康公の逸話集によると、家康は将軍になった後も、氏真と面会する際は、丁寧に挨拶していたそうです。もはや大名でもない人物(氏真)に対してです。
I:きっと家康は世情の変化でたまたま地位が逆転しただけだと思っていたのでしょう。一度でも立場が目上だった人物への敬意を忘れないということなのでしょう。ですから、家康が氏真を兄と思っていたというのは本心だと思って見ていました。そして、このシーン、溝端さんもそうですが、「松潤家康」も渾身の演技を見せてくれました。ちょっと昨年の北条義時(演・小栗旬)と畠山重忠(演・中川大志)の殴り合いのシーンを思い出したりして(笑)。
A:なんか、このシーンを見て、後年将軍になった家康が、氏真と昔語りする場面があったらいいなあ、と思ったりしました。実現するのならば、涙ぼろぼろの感動シーンにしてほしいです。
武田信玄の首実検の場面で思ったこと
I:信玄がたくさんの首桶を検分して、首実検をする場面がありました。〈冬が過ぎ、春を越え、夏の匂いがしてきた〉と信玄がいっていましたが、これは夏になったから首が異臭を放つようになったことを言っているのですかね? そんなことはないけれど、肝の据わった信玄がいうと、そういう風に聞こえてくるから怖いです。
A:保存技術のない時代ですから夏は大変だったと思います。ただ「慣れ」というのは恐ろしいもので、現代人なら顔をそむけたくなるような臭いも当時の人たちは日常のものだったのではないかと想像したりしています。
I:その信玄を家康が怒らせてしまいましたね。
A:さて、来週はどうなるのでしょう。次回予告では新たなキャラクター登場のようですが……。
●編集者A:月刊『サライ』元編集者(現・書籍編集)。歴史作家・安部龍太郎氏の『日本はこうしてつくられた3 徳川家康 戦国争乱と王道政治』などを担当。『信長全史』を編集した際に、採算を無視して信長、秀吉、家康を中心に戦国関連の史跡をまとめて取材した。
●ライターI:三河生まれの文科系ライター。月刊『サライ』等で執筆。『サライ』2023年2月号 徳川家康特集の取材・執筆も担当。好きな戦国史跡は「一乗谷朝倉氏遺跡」。猫が好き。
構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり