ライターI(以下I): 今週はなんというのでしょうか、 瀬名(演・有村架純)から「戦国ユートピア構想」のような案が語られました。
編集者A(以下A):武田や徳川だけではなく、北条、今川、上杉、奥州の伊達まで糾合して「慈愛の国」を築いていくという壮大な計画でした。中途半端な設定だとうさん臭く感じるのでしょうが、ここまで思いっきり振り切られると、逆に爽快な感じがして」面白かったですね。
I:まず、武田信玄(演・阿部寛)、勝頼(演・眞栄田郷敦)の側近穴山信君(演・田辺誠一)が唐の国の医師滅敬(めっけい)という設定で、岡崎の瀬名(演・有村架純)のもとを訪れるという衝撃的な場面から始まりました。
A:唐の国の医師と築山殿(瀬名)が不倫関係にあり、武田側に通じていたという話は、史資料にも記されていますが、本作では、武田と徳川の争いを終結させたいという瀬名の願いをきっかけにして、滅敬に扮した穴山信君が岡崎を訪ねるという設定でした。
I:先週の当欄でも、有村架純演じる「善玉瀬名」に従来の「悪玉瀬名」のエピソードをアレンジして被せてくる手法は、斬新という指摘をしましたが、今週はさらに輪をかけて来たということですね。
A:こういう手法に対して難色を示す方もいるかもしれません。でもここまで振り切られると、逆にハタと気づかされることが多々あります。これまで築山殿(瀬名)の事件といえば、信長の娘で松平信康(演・細田佳央太)に嫁いでいる五徳(演・久保史緒里)が、築山殿と武田側が内通していることを信長に訴えたことで発覚したという流れが主でした。
I:築山殿と武田が内通していたということですよね。本作でも武田方の千代(演・古川琴音)が出入りしていましたから、外形的には内通しているということになりますが 、瀬名の思いはあくまで武田と徳川との間の戦いをおさめようという設定。びっくりしたのは、その計画に於大(演・松嶋菜々子)と久松長家(演・リリー・フランキー)夫婦に加えて、なんと今川氏真(演・溝端淳平)と糸(演・志田未来)夫婦まで賛同していたことです。
A:振り切ったついでに、瀬名の両親の関口氏純(演・渡部篤郎)と巴(演・真矢ミキ)も実は生きていた設定にして登場させてもよかったくらいですが、さすがにそこまではしませんでしたね。そのくらいびっくりの設定でした。
そして、武田と徳川「偽合戦」に発展
I:瀬名の「築山」に穴山ほか、様々な人々が集っていることを聞いた家康(演・松本潤)や酒井左衛門尉(演・大森南朋)、石川数正(演・松重豊)、さらには五徳までもが築山に突入しました。左衛門尉が〈一同、動くな。殿のお成りである〉と声高に叫んだシーンは、「水戸黄門」の助さん格さんのようにもっとゆっくりやって欲しかったと一瞬ですが思いました。
A:なるほど。水戸黄門こと徳川光圀は家康の孫ですからね。そういう演出もありだったですかね。さて、一連の流れですが、「史実が」とか「大河とは」と思ってしまうと、違和感なのでしょうが 、なんだか、贅沢な時代活劇という感じで面白い場面になりました。だいたい穴山信君=滅敬が築山で家康と対面を果たすって、衝撃的な展開ですよね。そもそも穴山信君は後に穴山梅雪と称されますが、母が武田信虎の娘ですから信玄とは従兄弟。妻は信玄の娘ですから重臣であり武田一族の一員という重要人物なわけですから。
I:この後の流れを思い起こすと、なんだか意味深な対面になりましたね。そして、この場で壮大なる瀬名の考えが語られます。今川氏真、武田だけではなく上杉や北条、さらには奥州の伊達の名前まで飛び出す東国連合。慈愛の心で結びついた国、戦のない国、〈あらゆることを話し合いで決めていく〉国を目指すというのです。
A:ちなみにこの頃の奥州伊達氏は後に独眼竜と称される政宗が10代前半。間もなく愛姫との婚姻が成立するくらいの時期ですから、当主は伊達輝宗……。しかし、戦国のユートピア構想のようなものを瀬名が発案するというのは、あまりにも斬新な展開。
I:こういう解釈を見せられると、逆にいったい築山殿の事件の真相はどこにあるのか、ということを深く考えたくなりました。そもそもこれまで伝承されて来た築山殿と信康の悪玉エピソードもどこまで真実を伝えているのですかね?
A:確かに築山殿などの悪玉エピソードは創作されたものかもしれません。五徳の告げ口、信長の怒りなどもなんだか「作られたエピソードかも」と思ってしまいますよね。実は家康と信康の間に生じた父と嫡男の争いに端を発しているという説も近年有力視されていますから、今後の研究の進展が期待されます。さてさて、真相はどうだったのでしょう。
【慈愛の国、戦のない国は実現できたのか。次ページに続きます】