ライターI(以下I): 第23回の冒頭では、戦場で荒々しく動き回る松平信康(演・細田佳央太)が登場しました。前週の第22回冒頭では、幼いころに虫も殺せない優しい性格だった(当時は竹千代)ことを強調する場面が登場していたので、その落差にびっくりした人も多かったのではないでしょうか。
編集者A(以下A): 「幼少期や少年期に虫も殺せなかったのに……」「なぜこんなに荒々しく」という変化は現代の人間でもよくあることです。この場面は少年期の一面を取り上げてレッテル貼りをすることは慎むべき、という警鐘だと思って見ていました。人間は成長を機に、進学を機に、出世を機に、人が変わることはままあります。酒を飲むと人が変わる人、ハンドルを握ると性格が変わる人などもいますし。
I:信康が粗暴な人物になったとしてもおかしくはないということですね。確かに、甲冑を身に着けたら性格が変わる人だったかもしれませんし、合戦が続く中で、精神的に追い込まれたのかもしれません。設楽原の戦いの直後ですからなおさらです。そして、歴史とは勝者によって紡がれる物語ですから、「信康に非」があったことをことさら強調したい人たちがいたのかもしれません。そもそも後付けで「非道な人間だった」と記録されるのは歴史の常套手段。妊婦の腹を割いたと記された武烈天皇や、家康らと同時代でも豊臣秀次など、悪評された人は枚挙にいとまがありません。
家康の側室について
I:さて、お家が騒然としている中で、家康は新たな側室との出会いの時を迎えます。いろいろ物議を醸したお葉の方(演・北香那)が「肩もみ要員」として残っていたのも驚きでしたが、於愛(演・広瀬アリス)との出会いもびっくりなシチュエーションでした。
A:家康(演・松本潤)のお尻をいきなりバシーンと叩いていました。無邪気で快活で、無防備に人の懐にどんどん入ってくる――。そんな性格の人も多いですし、そんな人に惹かれる人っていますよね。
I:笛を吹くのがうまいかと思ったら、そうでもない。でもそれを無邪気に表現する、そんな姿に家康は惚れたんではないですかね。なんだか広瀬アリスさんはまり役のような気がしています。
A:家康と於愛の方の関係がどうなっていくのか――。まっさらな気分でふたりの行く末を見守っていきましょう。
I:ところで、その於愛が、「側室認定」を受けるため、瀬名のもとに挨拶に行きました。そこで『源氏物語』を読んでいるという共通項があって、意気投合することになりました。「六条御息所の別れ」「藤壺の逢瀬」の場面が好きということでした。来年の大河ドラマ『光る君へ』の露払いのようなエピソードになりました。
A:露払いかどうかはともかく、なぜ「六条御息所」なのか、意味深ですね。
I:え? それはどういうことでしょう。物の怪とか生霊のことをいっていますか? まさか瀬名が物の怪になるとか? それは、絶対にあり得ません!
A:いやいや瀬名が物の怪になるとは思っていませんが、何かの伏線なのかなとは思ったりしています(笑)。
【信長はすべてお見通し。次ページに続きます】