信長はすべてお見通し

何でもお見通しの信長(演・岡田准一)。(C)NHK

A:さて、物語はスリリングな展開を迎えます。「築山」の門番が五徳(演・久保史緒里)の息がかかった人間で、そこから得られた情報が五徳から信長(演・岡田准一)のもとに伝わっていました。怒った信長が標的にしたのがなぜか水野信元(演・寺島進)。

I:なんだかぞくぞくするような流れでしたね。

A:水野信元と久松長家(演・リリー・フランキー)との最後の絡みは前半戦の名場面になりました。ほんとうに魅せられましたよ。劇中では、〈裏でこそこそやっている〉〈お前の身内の誰かじゃ〉〈信長はすべてお見通しじゃ〉などと、信元が家康に対して忠告していましたが、なかなかいい切り口だなと思って見ていましたし、やはり寺島さんの台詞回しが心に響いてくるのですよね。

I:あ、私もそれ思いました。〈どこで張る方を間違えてしまったのかな〉というのは水野信元自身が博打好きという設定に加えて、今川と織田を天秤にかけて時勢を渡ってきた「水野家の博打」が敗れた瞬間を象徴するシーンになりましたね。

A:人生そのものを博打として考えた場合、〈どこで張る方を間違ったのか?〉と来し方を振り返った経験のある方もいらっしゃると思いますし、自分自身いろいろ思うところがありますね。

I:なんだか心に染み入る絶妙な台詞でしたね。そして、信元闇討ち直後の久松長家と於大(演・松嶋菜々子)のやり取りもしみじみしました。

A:まさか、水野信元粛清の場面でうるうるさせられるとは思いませんでした。さて、劇中では、見せしめの誅殺ということになった水野信元ですが、実際は、当時の物流の要衝である知多半島に所領を持つ「大物」。織田信長、徳川家康双方にとっては目の上のたんこぶのような存在。配下に置くよりも、所領ごと掠めてしまおうという思惑もあったのではないでしょうか。

追い詰められた水野信元(右/演・寺島進)と人質にとられた久松長家(左/演・リリー・フランキー)。(C)NHK

信康残酷エピソードの真贋

I:そして信康がさしたる咎のない道ゆく僧を斬ったという展開になりました。平岩七之助(演・岡部大)が必死で擁護しようとしましたが、ハイテンションな信康は聞く耳持たずという感じでした。

A:大河ドラマ前作の『鎌倉殿の13人』は鎌倉幕府の正史『吾妻鏡』をベースに描かれましたが、本作では『三河物語』『松平記』『三河後風土記』など、さまざまな記録から物語が描かれています。「甲斐から巫女がやってきて岡崎の人々を調略していた」というのも『岡崎東泉記』に記されているエピソードで、こちらはネットで読めたりしますね。

I:先ほど、武烈天皇や豊臣秀次の話が出ましたが、信康と築山殿にも同じような「残酷エピソード」が伝えられています。本作劇中では道ゆく僧を斬ったという設定でした。

A:〈なんといって謝ればいいのでしょうあの僧に〉や〈皆がつよくなれというから私は強くなりました。私は私ではなくなった。いつまで戦えばいいのですか。いつまで人を殺せば……〉と心の葛藤を吐露しました。偉大な父の後継者たらんことで葛藤する武田勝頼(演・眞栄田郷敦)との共通項を感じますね。

I:いったいぜんたい本当に信康はこのような狼藉をはたらいたのでしょうか。

A:確かに史資料には信康の残酷エピソードが記録されています。しかし、歴史上「悪人としておきたい人物に対する後付け」なのかなあ、と思って見ていました。

I:さて、息子の葛藤を目の当たりにした瀬名が、ある決断を下します。〈ずっと胸に秘めていた考えがある。恐れ多いはかりごとじゃ。もし、そなたがやるというのなら、それをなす覚悟ができている〉いうことで千代に依頼して、岡崎にやって来たのは……。

A:いったい瀬名は何を企んでいるのかと背筋も凍る思いで見守っていると、唐の国(中国)の医師滅敬(めっけい)という人物が千代とともに現れました。目を凝らして見ると、信玄・勝頼の側近として劇中でも頻繫に登場していた穴山信君(演・田辺誠一)。驚きました。そう来たか! と思いました。医師滅敬のエピソードも前述の史資料に記されているのですが、まさかその正体が穴山信君設定とは恐れ入りました。

I:まさに「壮大なるエンターテインメント」の面目躍如ですね。

A:瀬名に有村架純さんがキャスティングされた段階で これまでの「悪玉」設定ではなく「善玉」設定になるのでは? と想像していましたが、単純な「善玉」設定ではなく、従来の悪玉エピソードをうまくアレンジして展開されているようです。それにしても滅敬=穴山信君とは……。

I:どういう展開になっていくのでしょう。ぞくぞくが止まらないですね。来週が待ち遠しいです。

唐の医師滅敬に扮して築山に現れた穴山信君(演・田辺誠一)。(C)NHK

●編集者A:月刊『サライ』元編集者(現・書籍編集)。歴史作家・安部龍太郎氏の『日本はこうしてつくられた3 徳川家康 戦国争乱と王道政治』などを担当。『信長全史』を編集した際に、採算を無視して信長、秀吉、家康を中心に戦国関連の史跡をまとめて取材した。

●ライターI:三河生まれの文科系ライター。月刊『サライ』等で執筆。『サライ』2023年2月号 徳川家康特集の取材・執筆も担当。好きな戦国史跡は「一乗谷朝倉氏遺跡」。猫が好き。

構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり

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