文・石川真禧照(自動車生活探険家)
長らく、日本を代表する高級車としての地位を保ち続けてきたクラウンに、大きな変化が起きた。世界の高級車市場を見据え、外観のデザインなどを大幅に一新したのだ。トヨタの新たな挑戦の行方が楽しみである。
トヨタのクラウンといえば、日本を代表する高級車として、いまなお多くの人たちに親しまれている。クラウンを所有することや、会社の役員に出世して、運転手付きのクラウンで通勤することが“夢”という時代もあった。
クラウンは、時代に合わせ様々なブランドイメージを打ち出してきた。例えば、1960年代後半に発売された3代目のキャッチコピーは「白いクラウン」で、高級車は黒塗りとのイメージを一新。’80年代に発売された7代目のそれは「いつかはクラウン」。自家用車を所有するすべての人たちの憧れの車へとイメージを変えた。
今回、クラウンは大幅にモデルチェンジし、16代目になった。初代が誕生してから約70年、クラウンは常にトヨタの乗用車の頂点に居続けてきた。この間、日本の顧客のことだけを考えた高級車を作り続け、輸出することもなく、日本のファンたちに愛され続けてきた。同じ名称で同じ格式をこれだけ長い期間保ち続け、販売も低迷しない車は他にない。
しかし、日本市場だけに特化した車づくりにも変化の波が押し寄せた。16代目を開発するにあたり、世界を視野に入れた開発が求められたのだ。そうして新型クラウンは世界市場を見据えたモデルチェンジに挑むことになった。
世界向けの開発とひと口に言っても、市場はさまざま。すべての市場で受け入れられることは至難の業だし、そういう車を作るのは不可能に近い。そこでトヨタの開発担当者は、サスペンションやエンジンなどの動力源は共通にしつつ、上家(ボディ)をそれぞれの国や乗る人の必要性に応じて変える、という手法を選択した。
4ドアセダンとSUV を融合した世界の高級車市場の定番の形状
昨年、トヨタは4つの異なるクラウンを発表した。4種類の中で最初に発売されたのが“クロスオーバー”と呼ばれる車だ。4ドアセダンとSUV(多目的スポーツ車)を融合させた新しい時代の自家用車。その車体はこれまでのクラウンからは想像もできない新しい方向性を感じさせる。
この車体の形状は、世界の高級車の市場では定番になりつつある。日本でも発売されたドイツのメルセデス・ベンツの最高級電気自動車にも採用された。トランク部分が客室と一体になっているような外観だが、開けてみるとトランクは独立しているのが大きな特徴だ。
クラウンは、70年近くも高所得者層やシニア世代を相手にしてきた。新しい飛躍を考えると、このぐらい大胆なイメージチェンジのほうが良いのかもしれない。しかも、このあと2023年中に第2弾、3弾、4弾と新タイプのクラウンが立て続けに登場する。
ちなみにこの3種類は、新しい正統派で運転手付きに応じた「セダン」、スポーティな走りを楽しむ「スポーツ」、機能的な荷室を持つ「エステート」になるという。4種類が出揃った時、改めてクラウンを乗り比べてみたい。
トヨタ/クラウン G“Advanced・Leather Package”
全長×全幅×全高:4930×1840×1540mm
ホイールベース:2850mm
車両重量:1790kg
エンジン・モーター:直列4気筒DOHC、2487㏄・交流同期
最高出力:186PS/6000rpm:(前)119.6PS、(後)54.4PS
最大トルク:22.5kg-m/3600〜5200rpm:(前)20.6kg-m、(後)12.3kg-m
駆動方式:4輪駆動
燃料消費率:22.4㎞/L(WLTCモード)
使用燃料:無鉛レギュラーガソリン
ミッション形式:電気式無段変速
サスペンション:前・ストラット式 後・マルチリンク式
ブレーキ形式:前・後:ベンチレーテッドディスク
乗車定員:5名
車両価格:570万円
問い合わせ先お客様相談センター 電話:0800・700・7700
文/石川真禧照(自動車生活探険家)
撮影/佐藤靖彦
※この記事は『サライ』本誌2023年2月号より転載しました。