シスターフッド(女性同士の連帯)を描いた映画やマンガがヒットし、女性同士の友情が注目されている。しかし、現実は、うまくは行かない。これは女性の友情の詳細をライター・沢木文が取材し、紹介する連載だ。

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バター、マヨネーズ、ハム……4月から約5100品目の食品が値上げされると報道されている。2023年2月、厚生労働省は2022年の「毎月勤労統計調査(速報、従業員5人以上)」を発表。それによると、物価の影響も考慮した「実質賃金」は前年に比べて0.9%で、2年ぶりのマイナス。物価高に賃金上昇が追い付かない現実を示していた。

「うちは40代で授かった子供の学費が家計を圧迫。切り詰めた生活をしています。それなのに、友達は彼氏ができて贅沢な生活をしているのがうらやましくて」と話すのは、神奈川県に住む郁子さん(60歳・パート)だ。

35歳で結婚、不妊治療を経て40歳で出産

郁子さんは快活な女性だ。刺繍が趣味で、「そうね、そうね」と相手の言うことに共感する姿勢を示し、好奇心も旺盛。刺繍を通じた友達も多いという。

「チビ……いや、息子(19歳)が大学に入るまでは、友達も多かったのですが、人付き合いってお金がかかるんですよ。ウチは駅まで15分、都心に出るまで70分かかる住宅街。片道700円以上の交通費がかかるから、誘われてもなんだかんだと断らなくちゃいけなくて。そのうちに声もかからなくなりました」

SNSで知り合った刺繍仲間は独身が多い。ランチに3000円、夜の飲み会に5000円ほど支払うという。郁子さんは夫(56歳)の扶養の範囲内でパート勤務しており、月10万円程度の収入しかない。数千円の出費は、財布にはかなり痛い。

「パパがくれる生活費は月10万円。パパはケチというか倹約家で、年間120万円ほどかかるチビの学費の半分を“2人の子供なんだから半分出してほしい”と言ってきたんです。私のパート仲間は、稼ぎの全額を小遣いにしていて、余裕ある生活をしているのに、正直、なんで私だけこんな思いをしなくてはいけないのだろうかと思います」

その背景には、郁子さんの希望で高額な不妊治療を行った「心のしこり」があるのではないかと分析しているという。郁子さん夫妻は職場の先輩と後輩という関係で出会い、郁子さん35歳、夫31歳のときに結婚。

お互いに「子供は要らない」という考えが一致して結婚したにも関わらず、結婚した郁子さんは子供が欲しくてたまらなくなったという。

「あれは自分でもホルモンが暴走したのだと思います。自然妊娠が難しく、パパとお医者さんのところに行きました。パパに原因があり、体外受精も経験し、最終的には“これで最後だから”とお願いして自然妊娠しました」

当時、不妊治療は一般的ではなかったという。当時の感覚では男性にとって、屈辱的と感じる治療もあった。夫は「あの辱めは一生忘れない」と、教育費を巡った夫婦ゲンカが起こると、切り札にしているという。

「いざチビが産まれると、育児が大変で会社を退職。幼稚園に入ると、周りのママさんたちはみんな若いでしょ。衝撃的なのは幼稚園の年少さんのときの最初の運動会。どのママさんもお尻の形がプリっとしている。ふと自分を見ると、体全体が四角く、髪もパサパサで、首が出て背中が猫背になっている初老の体型。そんなときに、似たような体型を見つけたのです。それが香織さん(60歳)でした」

親しくなり話を聞くと、香織さんも不妊治療の末に娘を授かっていたという。香織さんは夫と不妊治療が原因で離婚。その後はさして豊かでもない実家に身を寄せつつ、一人娘を掌中の珠と慈しみ育てていた。

【私はパパ(夫)がいるだけ、マシ……次のページに続きます】

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