文/鈴木拓也
「人間は血管とともに老いる」という言葉がある。
血管そのものを見ることのない我々にはピンとこないが、若い血管と老化した血管とは、どこが違うのだろうか。
それは「血管を流れる血液の勢い」だと答えるのは、「栗原クリニック東京・日本橋」の栗原毅院長。栗原院長によれば、「血液の勢い」は、心臓の拍動だけではなく、動脈の中層にある平滑筋がポンプのように動いて、血液を先へ先へと送り出すことで生じているという。それが、加齢によって弾力を失い硬くなる。硬くなった血管は、血液の圧力(血圧)を受けて、いっそう硬くなる悪循環が起きるという。
もう1つの理由が、高血糖や中性脂肪によってもたらされる、いわゆる「ドロドロの血液」。こうなると、血液を押し出すのに強い力が必要になって平滑筋が疲れてしまう。また、血管の内壁が傷ついて動脈硬化が起こり、さらに血管が硬くなる。
以上が、血管の老化の正体である。
血管の老化の何が問題かというと、なんといっても認知症や脳梗塞といった重い病気にかかりやすくなることだ。こうした病気は、「脳の病気」と思われやすいが、実際は「血管の病気」であると、栗原院長は共著書『血管が強くなる習慣』(フォレスト出版)で説く。言われてみれば、脳梗塞は、脳の老化した細い血管が詰まることで起こり、認知症はアミロイドβという老廃物が、血流によってうまく排出されないことで起こる。
では、その血管の老化を改善するにはどうすればよいか? 本書には、誰でもすぐに始められるセルフケアが多数紹介されている。そのいくつかをピックアップしてみよう。
「座るスクワット」で血流を改善
本書では、いくつかの運動がすすめられているが、その1つがスクワット。
「血管の話なのに、なぜ筋トレをするのか」と思うかもしれないが、理由がある。まず、筋肉の中には、たくさんの血管が走っているというのが一点。スクワットで鍛えられる太もも・お尻の大きな筋肉だと、血管も特に多い。そのため、スクワットをするだけで、その部位の血管が刺激され、血流改善が最大化される。
もう1つは、一酸化窒素(NO)の存在。NOは、血管壁から産生され、血管を拡張し血流を良くする働きがある。それによって、血圧が下がり、動脈硬化のリスクが大幅に低下することが期待できる。
このNOは、「力を入れて急に緩める運動」をすると、多く産生することがわかっている。スクワットもしかり。本書で、特にすすめられているのが「座るスクワット」。以下の要領で行う。
まず、なるべく低い椅子を用意します。できれば、膝よりも座面が低い椅子がベストです。
椅子の前に立ち、背筋を伸ばして腕を胸の前にまっすぐ出します。そして、なるべくゆっくりと腰を下げていきます。呼吸を止めないことと、膝がつま先より前に出ないことがポイントです。
座面に太ももが触れそうになったら、そこでストップ! 10秒間、キープしてください。このときに、もっとも筋肉に負荷がかかります。
そして、ふっと力を抜いて、椅子に腰かけてください。脱力をすることで、血管の中にじわ~っとNOが発生します。
数秒、休んだら、今度は逆の動作で立ち上がります。(本書より)
この一連の動作を5回行う。結構な運動になり、フレイルの予防にもなる。
塩分は「やっぱり血管の大敵」
もう1つ重要なのは食事。基本的にはタンパク質を十分に摂って、糖質と塩分を控えめにすることを心がける。
糖質については、極端に減らす必要はなく、血糖値が上がりにくい摂り方がすすめられている。これにはコツがあって、空腹の小腸は、最初に食べたものを貪欲に吸収するという性質を生かす。つまり、「食事が出てきたら、ご飯から手をつけずに、肉や魚、あるいは野菜から食べる」。特に野菜は食物繊維が豊富で、腸の中で長時間滞留する。この状態では、糖質の吸収がゆっくりになって血糖値の上昇を抑えられる。
また、血糖値の上昇という意味では、早食いは良くない。そこで、努めてゆっくり食べるようにする。1人で食べると、早食いになりがちなので、誰かにと一緒に食べるのがいい。ふだん一人暮らしであれば、テレビやスマホを視聴しながら食べでもOK。
そして日本人は、塩分の摂りすぎが以前から問題になっていたが、「塩分は、やっぱり血管の大敵」だという。そこで注目したいのは、しょうゆと味噌。発酵食品として優秀であるが、どちらも塩分濃度が高いという難点がある。といっても、無理をしてゼロにする必要はなく、減塩しょうゆや減塩味噌に変えるという手がある。
ただし、しょうゆは減塩のものに変えても、使い方には注意。
冷奴にしょうゆをぐるりとかけ回す人がいますが、それは大さじ1くらい使うことになります。
小皿にしょうゆを出して、必要な量をつけながら食べましょう。
もちろん、野菜炒めなどにかけ回すのはよくありません。塩が足りないのではなく、単なる習慣でしているケースも多いようです。見直してみてください。(本書より)
そして、盲点となりやすいのが、スナック類。これは、「糖質と塩分の塊」とも呼ぶべきもので、「やめられるものなら、スパッとやめるのが得策です」とアドバイスされている。スナックはやめられても、なにかお菓子を食べたくなったら、健康的に食べられるおやつとして、カカオ分70%以上の高カカオ・チョコレートがすすめられている。これには、カカオポリフェノールという有効成分が含まれており、血管を若々しく保つ力があるという。もっとも、一度に食べすぎるのは禁物で、小さく個装された1枚にとどめておく。
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本書にはこのように、血管を強く健康にする「いい習慣」が多数掲載されている。最初はできることから始め、少しずつ増やしていくのがいいだろう。著者も「20、30とできる頃になったら、きっと丈夫な血管になっているはずです」と記している。健康の道に近道はない。地道に進めていくのが肝心だ。
【今日の健康に良い1冊】
『血管が強くなる習慣』
文/鈴木拓也 老舗翻訳会社役員を退任後、フリーライター兼ボードゲーム制作者となる。趣味は神社仏閣・秘境巡りで、撮った映像をYouTube(Mystical Places in Japan)に掲載している。