文/印南敦史
日々の暮らしのなかで、「血管」を意識する機会はそれほど多くないかもしれない。なにしろ見て確認するわけにはいかないのだから、仕方ないことではある。が、だからといって無視するわけにはいかないのも事実。
『血管が強くなる習慣』(栗原 毅、栗原丈徳 著、フォレスト出版)の著者による以下の文章からも、血管の大切さがわかるはずだ。
「血管」は私たちの体の隅々まで張り巡らされている重要な道路、いわばインフラです。太い大動脈を高速道路にたとえるなら、毛細血管は住宅街を走る生活道路といえます。当然、各臓器にも毛細血管が張り巡らされており、その血管があるからこそ、臓器は健全に働くことができるわけです。
そんな道路が陥没したり、崩壊したら、どうなってしまうかは、誰でも想像できるでしょう。(本書「はじめにーー血管の健康、気遣っていますか?」より)
たとえば「脳梗塞」は脳の病気だと思われがちだが、正しくは血管の病気。血管が脆くなったり傷ついたりすることで、細い血管が切れたり詰まったりするわけだ。そんな状態が、結果的には脳梗塞や脳出血、くも膜下出血などの「脳血管疾患」につながるのである。
また、心臓のまわりの血管が切れたり詰まったりしたら「心疾患」につながる。そんなところからもわかるように、血液を流している「血管」が健全でなければ、さまざまな問題が起こるわけである。
そこで本書では、体の重要なインフラである「血管」に焦点を当て、血管を健康に保ち、強くするノウハウを明かしているのだ。
ただし必要以上に専門的ではなく、普段の習慣を少し変えてみるだけで取り入れられることばかり。最初からすべてをやる必要もなく、「これならできそうだな」と思うものを5つ程度やってみるだけでいいそうだ。
第4章「日中、心掛けたい習慣」のなかから、すぐに取り入れられそうな2つをピックアップしてみることにしよう。
1時間座ったら立つ
オーストラリアのシドニー大学が死亡リスクに関する調査を行ない、椅子に座っている時間が1日4時間未満の人に比べて、8〜11時間の人は15%増、11時間の人は40%増と発表しました。「座り過ぎ」が喫煙や過度の飲酒と同じくらいに健康を損なうリスクがあるとわかったのです。(本書138ページより)
よく知られているエコノミー症候群がそうであるように、椅子に座ると体がクランク状に曲がるため血流が悪くなってしまうのである。ほぼ一日中座って仕事をしている私にとっても他人事ではないが、予防法は簡単だという。
1時間座ったら、立ち上がってください。もし、できるならオフィスの中を少し歩くと完璧です。
それすらもできないほど忙しいなら、せめて膝から下を伸ばしてブラブラと振る運動をしてください。(本書139ページより)
なるほど、どれだけ忙しくても、これなら簡単にできそうだ。
1日1リットルのミネラルウォーターを飲む
とりたてて激しい運動をしなくとも、ただ日常生活を送っているだけで多くの水分が失われていく。
まず、あまり意識されることはないだろうが、吐く息に水分が含まれている。これは、肺や気道が常に水分で湿っているから。吐く息で失われる水分は、なんと1日約400mlにもなるというのだから驚きだ。
もちろん、それだけではない。たとえば皮膚からは600mlの水分が蒸発し、尿や便で排出される水分は1300mlと考えられている。つまり、単純計算でも1日に2300mlもの水が体から出ていくのである。
体から水分が失われて足りなくなると、当然のことながら脱水症状になる。すると血液が濃くなり、血液の流れが悪くなる。また血液が固まりやすくなるので、血栓もできやすくなる。そういう意味でも、失われた水分は補給する必要があるのだ。
では、具体的にどうすればいいのだろう?
一般的な食事から摂る水分は600mlといわれています。
また、食べものを分解してエネルギーに変える化学反応の過程で、200mlの水がつくられています。合計すると800mlの水分を得ていることになります。
つまり、失われる水分との差、1500mlを補給する必要があるのです。(本書141ページより)
お茶やコーヒーを500ml飲むなら、1Lくらいの水を意識的に飲むようにするといいわけだ。清涼飲料水や缶コーヒー(自分で淹れるコーヒーは別)はやめ、ミネラルウォーターや緑茶を飲むようにするのがいいようだ。
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このように、血管をいたわるための手段は決して難しいものではない。難しいどころか簡単だから軽く考えがちかもしれないが、むしろ大切なのは、それを習慣化すること。
「いつでもできることだから」と先送りにするのではなく、著者がいうように「できそうだな」と思うことをいくつか試してみることが大切なのだろう。
文/印南敦史 作家、書評家、編集者。株式会社アンビエンス代表取締役。1962年東京生まれ。音楽雑誌の編集長を経て独立。複数のウェブ媒体で書評欄を担当。著書に『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社)、『プロ書評家が教える 伝わる文章を書く技術』(KADOKAWA)、『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)、『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)、『書評の仕事』(ワニブックスPLUS新書)などがある。新刊は『「書くのが苦手」な人のための文章術』( PHP研究所)。2020年6月、「日本一ネット」から「書評執筆数日本一」と認定される。